特集コンテンツ

【教科長座談会】難関国私立高校の2023年度入試を振り返って

インタビュー入試分析

SAPIX中学部では、国立大附属校と難関私立校、早慶高の入試が終わった段階で各教科の教科長が集まり、今年の入試の出題傾向などについて振り返る座談会を開きました。今年の入試にはどんな傾向が見られたのでしょうか。それを踏まえて、来年以降の受験生はどんな学習をすればよいのでしょうか。座談会の内容についてまとめました。

  • この座談会は2023/2/22(水)に実施されました。

【開成高・筑駒高・慶應女子高】入試傾向と学習アドバイス

開成高・筑駒高

――今年の各校の入試ではどんな点が注目されますか。また、出題傾向を踏まえた学習アドバイスもお願いします。まず、開成高と筑駒高から。

英語科/磯金俊一

磯金(英語) 開成高の英語は難度が下がり、受験者平均点が前年より約12点上がりました。文法問題は易しくなりましたが、リスニングの音声には非英語圏の発音が交ざっていたため、苦戦した生徒もいたようです。学習する上で大切なのは、他の難関校に比べて文法問題の割合が依然として高いので、SAPIXの語彙や文法のテキストでしっかり学ぶこと。リスニングは配点が高く、図表やグラフを伴う独自スタイルのため、その対策も必要です。

筑駒高の英語は例年、長文は2題とも物語文でしたが、今年はそのうち1題がエッセイでした。同校の入試では例年、直接書かれていないことを読み取る力を求められます。加えて昨年と今年は、物語文の結末の面白さを50文字以内でまとめる問題がありました。こうした問題に対応するためにも、日本語で読むときにそうするように、英語でも意図や真意をくみ取るようにしましょう。

青木(数学) 開成高の今年の数学は解きやすく、合格者平均点はこの10年間で2番目に高い71.1点でした。答案用紙には途中式など、解き方のプロセスも書かなければなりません。この形式に対応できる力を磨くには、身に付けるべき解法をベースにした上で、問題ごとにそれをどう使うかといった思考力を鍛えることが必要です。

筑駒高の数学は難度も出題形式も例年通りでした。ただ、受験者によっては少し難しく感じたかもしれません。解答用紙には計算欄がありますが、開成高ほど解き方のプロセスは重視されません。試験時間は45分で、小問数は例年12~13問ですから、素早く解くことが大切です。

今野(国語) 開成高の国語は例年通りでした。記述問題は一部で字数制限が設けられましたが、基本的には行数のみ指定されます。何も考えずに書くと指定の行数や字数に収まらないので、普段から要点を押さえて簡潔に書くようにしましょう。

筑駒高の国語は昨年、文章量が一気に増えて問題用紙はB4版8枚に達しましたが、今年は同校の標準的な量である5枚に戻りました。とはいえ、楽になったわけではありません。試験時間は45分と短いため、スピードが求められます。中3の秋以降はスピードを意識して問題演習を行ってください。

理科 理科は両校とも例年通りの傾向でした。開成高は基礎問題と応用問題の難しさが大きく異なるので、基礎問題の取りこぼしを抑えることが重要です。今年の応用問題は物理でした。

筑駒高は例年、読む力が重視されます。それは同校に、思考力・分析力を測りたいという意図があるためだと考えられます。

学習アドバイスとしていえるのは、両校とも基本知識を完璧にすることですが、大前提として、なぜそうなるのかという仕組みを理解することが必要です。付け焼き刃の暗記では対応できないので、低学年のうちから、本質を意識して学習しましょう。

瀧島(社会) 開成高の社会は教科書の重要語句を漢字で書く、統計を丁寧に読み解くなど、ミスなく確実に得点することを求められるものと、中学教科書の範囲外からの出題や、あえてヒントを絞り、難しくした応用問題に分かれていて、受験者平均点はその割合によって上下します。

今年度の受験者平均点は28.7点と例年より低く、久しぶりの20点台となりました。ただし、合格者平均点と受験者平均点の差は例年通りでしたので、受験者全体が得点できなかったものが増えたといえます。特に、今年の地理は例年のように基礎的な統計を読み解くものではなく、詳細な知識と選択肢の慎重な吟味を求められるものが多く、得点しづらい印象でした。

筑駒高の社会では知識を運用して得点に結び付けるような処理能力が必要な問題や、知識の精度を確認する問題が出ます。記号選択問題が中心ですが、その特徴は複数の正答をきちんと選ばないと得点できない問題が多いこと。正しい選択肢を全部選ぶ問題が多いほど正答率は下がりますが、近年はそれがかなり減り、選択肢も処理しやすいものが増えたため、難度は落ち着いています。ただし、難度が下がったことで逆に得点差がつく傾向にあることには注意が必要です。

学習アドバイスは両校に共通しています。目標は教科書の内容を細部にわたって理解できるレベルまで知識を深めることです。ただし、教科書だけを使用して学習してもその域に達することは難しいため、複数の教材を使用して多くの問題を解きながら、さまざまな角度から知識を積み上げていくことが必要です。筑駒高に関しては、開成高以上に情報処理力やスピードが求められるため、練度を高めて入試に臨む必要があります。

慶應女子高

――次に、慶應女子高について伺います。

磯金(英語) 英語は例年通りでした。2021年からリスニングがなくなった代わりに、グラフや統計などの数値を読み取り、論理的思考力を問うという、社会との教科横断的な問題が出ています。他の難関校に比べて長めの日本語の英訳、英語の和訳が出題され、それらに時間が取られます。英作文の出題も毎年あり、根拠を踏まえて自分の意見を書きますが、それに使える時間は60分中5~7分と短いため、一気に書き切る技術が必要です。新傾向である論理的思考力を測る問題は、それが苦手な受験生は思いの外、時間を取られるはずです。他校の過去問で類似問題をたくさん解き、情報を素早く取り出して、データから結論を導く練習をしておきましょう。

数学科/青木茂樹

青木(数学) 今年の数学は典型的な問題が多かったため、解きやすかったと思います。例年、全ての問題でどう解いたかという過程の記述を求められるので、普段から解き方を意識して勉強することが大切です。出題される単元はある程度決まっているので、そこを重点的に学習しましょう。同校の特色である整数の問題も出ましたが、ここ4~5年で問い方が少し変わりつつあります。

今野(国語) 6年ぶりに古文が単独で出題された以外は、国語の傾向は例年通りです。難度はここ数年、抑え気味のため、受験生は取り組みやすく感じたはずです。学習に当たっては、記述問題の対策に加え、知識問題が多いので、漢字、語句、文法、文学史といった知識を固め、不用意な失点を防ぐように心掛けましょう。

【国立大附属校・早慶高】今年の入試を振り返って

筑波大附高・お茶の水女子大附高・学芸大附高

――筑波大附高、お茶の水女子大附高、学芸大附高(一般)はいかがでしょうか。

青木(数学) この3校の数学では、大学入試改革の影響を受けたような変化が2~3年前から見られます。他の教科はどうでしょうか。

国語科/今野拓実

今野(国語) 国語も同じで、お茶の水女子大附高の大問1が、複数の文章を組み合わせた問題になっているのが好例です。筑波大附高は法律の条文を含んだ小説文で、そこがきちんと設問化されています。これら複数文章、複数資料の読解は、大学入学共通テスト(以下、共通テスト)の影響だと思います。市川高や都立青山高などもこの手の問題を出しているので、同様の出題形式が今後どこまで広がるか、大いに注目されます。

磯金(英語) 英語では、新学習指導要領の影響という意味では、仮定法などの新単元からの出題が見られました。

理科 理科はお茶の水女子大附高で見られました。これまでは計算問題ばかり出していましたが、ここ数年、文章を読んで知識を基に分析して解くような問題にシフトしています。筑波大附高と学芸大附高は従来通りでした。

瀧島(社会) 社会はあまり変化していません。伝統的に資料を多用する問題を出してきたので、結果的に大学入試改革に対応するような形を先取りしていたのだと思います。

早慶高

――続いて、早大学院、早実高、早大本庄学院、慶應義塾高、慶應志木高について。

磯金(英語) 英語で特筆されるのは、慶應志木高で初めて自由英作文が出題されたことです。私大附属校なので大学入試はありませんが、大学入試改革の大きなトピックはアウトプットを重視することなので、同校に限らず、他の附属校でも少しずつ変わりつつあるのだと思います。

青木(数学) 数学は早大本庄学院、早大学院、慶應義塾高が難化し、早実高は例年通りで、慶應志木高は易化しました。難化が著しかったのは早大本庄学院で、今年は応用クラスの生徒でも対応しづらい問題が1、2問ありました。今後、同校を受験する生徒は要注意です。また、早大学院は四つある大問全てが難問でした。

今野(国語)  国語でトピックがあるのも早大本庄学院です。大問2は狭く暗い場所を偏愛する人が主人公の小説文で、中学生には奇問に映ったでしょう。また、大問1は作家論で、中学生は専門知識がないため、何が書かれているか分からなかったかもしれません。同校以外は例年の傾向をほぼ踏襲していましたが、例年、趣向を凝らした出題で受験生を戸惑わせてきた慶應志木高の今年の問題は標準的なものでした。

難関校に共通する出題トレンドと学習アドバイス

――最後に、最近の難関校全体に共通する傾向と、それを踏まえた学習アドバイスをお願いします。

青木(数学) 数学は、以前だったら図を見ながら解いたような問題の図がなくなったり、問題文を読んで整理した上で手を動かし始めなければいけなくなったりするなど、問題の見せ方、問い方が2~3年前から変わってきていると感じます。例えば、以前なら「直線の交点を求めなさい」としていたのが、「交点がこの直線上にあることを示しなさい」というふうに変わったというイメージです。とはいえ、問われる内容自体が変化しているわけではないので、これまで通りSAPIXで勉強していれば大丈夫です。

磯金(英語) 英語は説明文で社会問題を取り上げるケースが増えました。しかも、数年前なら「地球温暖化」「SDGs」など大枠のテーマが多く出題されましたが、今年は「食糧問題」など深掘りする出題が増えた印象です。また、アウトプット系の分量も増えてきていて、正答するには英語で読み取った情報を自分の言葉に置き換える「変換力」が求められます。説明文に書いてある内容をそのまま答えにするのではなく、別の言い方に置き換えるとどうなるかを意識することが大切です。

今野(国語) 国語では、時事的なテーマを扱った文章を題材にする学校が一定数あります。今年は筑駒高で昨今のロシア情勢を意識したであろう文章が、慶應女子高では脱マスク、渋谷幕張高ではジェンダーと、世相を反映した内容の文章が、それぞれ題材にされました。時事的テーマは知っていると対応しやすいので、新聞などで情報を得ておくと良いでしょう。

理科 理科では大きな変化はありませんが、実験に関する問題は増えた印象です。例えば、「この実験器具はなぜ、こんな使い方をするのか」などという問いがあり、そうした疑問を持たずに実験してきた生徒には落とし穴になります。また、問題文が長く、とにかく読む力が必要になりました。最近は思考力が重視されますが、そもそも知識があった上での思考力なので、基礎を習得しておかなければ歯が立ちません。

社会科/瀧島一裕

瀧島(社会) 知識を運用する力を思考力と呼ぶのは社会も同じです。大学入試で共通テストが始まったことで、これまで各高校が試行錯誤していた思考力を問う問題が、共通テストの形式をモデルに定まりつつある印象があります。また、新学習指導要領とそれに伴う教科書の改訂で、教科書がカバーできる学習内容が増えました。これにより、各高校が教科書に掲載されている内容で、難度の高い問題を作りやすくなったといえます。記述問題ではある事柄に関してメリットとデメリットを両方答えさせるなど、多角的な視点が求められるものが増えていて、新学習指導要領でディスカッションの機会が増えたことなどを意識しての作題と推測されます。

この記事をお読みになった方へのおすすめコンテンツ

入試の出題傾向をSAPIX講師が独自に分析します。

2023年出題傾向リサーチ