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【学校訪問インタビュー】中央大学附属高等学校

インタビュー

SSH運営委員会委員・国語科教諭 高 和政 先生(左)<br />
SSH運営委員会委員・理科(物理)教諭 森脇 啓介 先生(右) SSH運営委員会委員・国語科教諭 高 和政 先生(左)
SSH運営委員会委員・理科(物理)教諭 森脇 啓介 先生(右)

SSHの学びを実現し 未来へ力強く歩む力を養う


「中附」の略称で親しまれ、卒業生の85~90%が内部推薦で中央大学に進学する東京・小金井市の中央大学附属高等学校。「自主・自治・自律」を基本精神に掲げ、多様化する社会に対応できる力を育んでいます。「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」指定校として推進する同校の教育プログラムについて、共に同校の卒業生であり、SSH運営委員会委員でもある高和政先生と森脇啓介先生に伺いました。

附属校のアドバンテージを生かし 高大連携で「卒業研究」をサポート

――初めに、大学附属校としての強みについてお聞かせください。

 最大のメリットは、受験にとらわれずに3年間を過ごせることではないでしょうか。高3で学びの集大成となる「卒業研究」に思い切り取り組むことができるのは、附属校ならではの利点といえます。文系の生徒が執筆する卒業論文は本校の伝統的なプログラムですが、理系の生徒を対象にした卒業研究も、今から7〜8年前にスタートしました。

森脇 理系では、自分の決めたテーマについて1年間かけて研究を進め、実験の企画・設計や分析、論文執筆に加え、ポスターを作成して外部に向けた英語での発表も行います。そこで、テーマに沿って考察し、その内容を英語でアウトプットする授業「Project in English」を高1から週2時間設定しており、高3理系クラスでは、理数教科と英語科の教員によるチームティーチングの授業も実施します。今年2月にも、本校主催の「英語研究発表会」を生徒主体で開催し、他校の生徒を招いて英語で卒業研究を発表しました。「英語で発表なんて、できるわけがない」と自信を持てずにいた生徒たちも、1年間の活動後には自己評価が大きく上がっています。

 確かに、英語で発表することに対する抵抗感は少なくなっているようですね。校内外の発表会で、多くの聴衆を前に英語でプレゼンテーションや質疑応答を行っている生徒たちを見ると、その変貌ぶりに驚かされます。

――大学の授業聴講や、単位を先行履修できる「特別科目等履修生制度」など、中央大学との高大連携プログラムも数多く用意されていますが、卒業研究についても連携が行われているのでしょうか。

 例えば中央大学理工学部の教授を招き、理系への進級を予定している高2生を対象に、「研究とはどのようなものか」をテーマにした講演を行っています。探究や課題研究では、「問いを立てる」ことが最も大切で、かつ最も難しい部分です。なるべく早い段階で研究テーマを選定することが重要なので、2022年度は時期を早めて12月に実施しました。生徒たちが考えたテーマ一つ一つに対してコメントをもらい、卒業研究に生かしています。

森脇 研究を進めていく中で、大学のさまざまな学部・学科の先生方からアドバイスや指導を受けることができるのも、高大連携の大きなポイントになっていると思います。理系の「卒業研究発表会」も、中央大学理工学部のキャンパスで教授等を前にして行っています。

 大学との連携とは別に、卒業生がアドバイザーとして関わってくれることも、大いに役立っていますね。自身の経験を踏まえた実践的なアドバイスをしてくれるので、身近なモデルケースとして、実質的な連携感が生まれているようです。非常に効果があることが分かってきたので、今後は卒業生との継続的なネットワークづくりを進めて、多様な形で関わってもらう機会を増やしていきたいと考えています。

独自の教科「教養総合」を再編 高1から探究学習の下地づくりを

――御校の大きな特徴である「教養総合」について教えてください。

 「教養総合」は本校の教育の柱です。従来の教科教育にもしっかり取り組みつつ、授業を通して主体的に課題発見力や問題解決力を身に付けていく内容になっています。まず、高1の「教養総合Ⅰ」で全員が「問い」の立て方を学びます。調査・検証・発表までを1年かけて行い、レポートを書いて、アカデミックライティングに一歩踏み出すイメージです。高2の「教養総合Ⅱ」では設定された講座から選択して、週2時間の授業に取り組み、「問い」に対する自分なりの結論を導き出して発表します。コースによって、事前事後学習も含め、国内外で現地調査を行う研究旅行も組み込まれているのが特徴です。こうした経験を踏まえて、自らテーマを設定して卒業研究を行う高3の「教養総合Ⅲ」につなげていくのです。

森脇 高1・2で研究した内容を高3の発表に結び付ける探究学習のプログラムを組んでいる学校も多いと思いますが、本校では、学年ごとに探究のサイクルを回し、それによって探究力が育まれていくことを目指しています。

――2022年度からの新カリキュラムで、高1にも課題探究が取り入れられたのですね。導入はスムーズに進みましたか。

 最初は戸惑いもありましたが、学校全体の意識が高1生にも伝播して、「探究して発表するのが常識なんだ」と理解していく感じでしたね。特に、レポートをまとめる直前に開催された、高2・3の「成果発表会」が良い影響をもたらしたようです。レベルの高い高3の卒業研究に触れたことに加えて、優秀作の中にもかなり自由なテーマの研究があることを知り、本当に自分の好きなことをやってよいと分かってモチベーションが高まったのではないでしょうか。あえてテーマを制限せずに、高1で全員が一度やってみる。この方式が本校には合っているのだと思います。

文理や分野の枠を超え 時代が求める科学的思考を養う

――御校は2018年にSSHの指定校となり、現在、第2期目を迎えています。文系進学の生徒が多いとのことですが、理数教育も重視しているのですね。

 高3で文系・理系に分かれますが、取り組んでいることに大きな違いはないのです。SSH指定校に採択される以前から、探究学習は文理を問わずに全校的にやるべきだと考えていました。卒業研究に関しても、文系も理系も、自分でテーマを決めて調査・検証し、発表することに変わりはありません。高2最後の成果発表の段階でも、文系に進級する生徒が理系的な発表をしていますし、その時点で文系の発表をしていた生徒が理系に進むケースもあります。

森脇 SSH指定校となってから、教科横断的な学びが実現してきていると感じています。理科教諭である私自身も、先ほどお話しした「Project in English」で、英語科とタッグを組んで授業を行っていますが、本校では科学的な思考を他の分野と融合して問題解決に取り組むトランス・サイエンスにも力を入れています。また、高2の「教養総合Ⅱ」では、教科の枠にとらわれず、多彩なコースを用意しています。

――「教養総合Ⅱ」のコースにはどのようなものがあるのでしょうか。

 私は国語科の教諭ですが、「教養総合Ⅱ」で担当しているコースでは、映画を通した物語分析とともに韓国の歴史や社会情勢なども考察し、研修旅行で韓国を訪れます。トランス・サイエンスのコースとしては、「高校生によるSDGsプロジェクト」「フクシマ・オキナワを通して近代化・科学技術を考える」「人工知能と人間」などがあり、その他のコースでも扱っている内容は多種多様です。

――科学的な探究活動を行う「Project in ScienceⅠ」のコースも設置されていますね。

 代表的なものは、「教養総合」のスタート当初から設定されている「光とオーロラの探究」です。物理的な研究に特化したものになるので、1学期には科学的な部分をかなりしっかりと学び、その上でテーマ設定をして発表まで進んでいくことになります。このコースから高3の卒業研究まで探究活動を継続して論文にまとめ、SSH生徒研究発表会で奨励賞を受賞している生徒も出ています。
生物系の「マレーシア・ボルネオのジャングル自然調査」も面白い取り組みで、武蔵野公園でパークレンジャーの指導を受けながら自然調査を学び、ボルネオで生物の実地調査を行います。また2022年度には、ムササビの研究をしている生物部員が全国高等学校総合文化祭の自然科学部門で文化庁長官賞を受賞しました。これも、「教養総合」での学習と課外活動、対外的な発表がうまくリンクして、成果として表れたものです。

森脇 物理部でも電気自動車の開発を始め、昨年夏の耐久レース「Ene-1 MOTEGI GP」に出場して見事完走を果たしました。現在、2号機の製作に取り組んでいるところです。

 近年、科学系の部活の存在感が非常に高まっています。生物部は部員数も多く、高尾山を駆け回ったりしながら、卓越した研究を生みだしていますね。こうした研究の成果によって、他大学に総合型選抜入試で合格する生徒も増えていて、高校の研究をベースに大学での学びを専攻するという良い流れができています。

――まさに、これからの時代に必要となる「大学進学後も活躍できる科学技術人材」が育成されているのですね。

認め合い、刺激し合う関係が 生徒たちの自発的な成長を促す

――SSHのプログラムに取り組む中で、他にどのような変化が表れていますか。

 成果発表会やSSH指定校発表会など、発表の機会が随分増えました。理系だけでなく文系もポスター発表を行うのですが、校内には過去の研究のポスターが掲示されていて、生徒たちが先輩の例に倣いながら研究活動をスタートできているところも、肯定的な変化といえるでしょう。

森脇 SSH指定校となった5年前は、理系の卒業研究も始まったばかり。探究とはどういうことなのかが分からない生徒も多かったのですが、最近は「探究するのが当たり前」という雰囲気があります。毎年、自分でテーマを決めて探究していくというサイクルができていて、成果発表会のレベルも高くなり、活気に満ちたものになっていると感じます。

――文系と理系の生徒がお互いの発表を聞くこともできるのですか。

 はい。理系と文系の生徒が双方の発表を聞く機会を意識的に設けていて、成果発表会で下の学年のクラスに出向いて発表を行う際にも、文系・理系の内容をちりばめています。高3生同士を見ても、高い成果を出している理系の研究に文系の生徒が刺激を受ける一方で、理系の生徒が文系の生徒の発表を見て、その文章力に感銘を受けるなど、互いにリスペクトし合う関係性も出てきています。生徒同士が刺激し合って成長していることを、この数年間で実感しているところです。

――「教養総合」の授業を通して、「中附らしさ」を感じることはありますか。

 学年を越えた発表の機会があると、生徒たちは劇的に変わります。以前は卒業研究の発表も高3生だけで行っていたのですが、成果発表会には全学年が参加するようにし、その他にも学年を越えて発表する機会を設けてみました。すると、下級生が先輩に対して緊張感を持って頑張るのはもちろん、上級生が下級生に対して“カッコつけよう”として、一生懸命に準備して発表に臨むのです。普段の授業では見られないような生徒たちの姿を目の当たりにして、「これはすごい!」と思わず目を見張りました。

森脇 他校の生徒や保護者も招いて設定すると、やる気も倍増するでしょうから、今後はそうした発表の機会も増やしていってあげたいですね。
私の中には、「中附生はイベント好きで、『楽しい』と思ったらすごく頑張る」というイメージがあります。「教養総合」の授業でも、「この研究は面白いな」と思うと、努力を惜しまずに熱心に取り組んで、素晴らしい成果を残してくれています。校則がない自由な校風の本校には、もともと個性や主体性を持った生徒が集まっているので、目立つ場面や自分が頑張れる場面があると、力強く動くことができるのではないでしょうか。

 「目立ち方」が多様になってきているのも、良いことだと思います。専門家レベルの高度な発表が可視化されるようになって以来、これまでとは違う価値基準が生徒たちの中に生まれました。そうした基準をもとに学内で名を知られる生徒が出てきているのも、新しい「中附らしさ」だといえるでしょう。

可能性を広げる教育環境で 自分で考え、判断する力を育む

――充実した施設を有するキャンパスも御校の魅力の一つです。理数教育の土台となる設備などについて教えてください。

 2003年に竣工した1号館には「Computer Lab」が2室、本格的な設備が整った物理・化学・生物の実験室が全部で6室あります。

森脇 早い段階から理数系の設備が完備されていたことで、学習の幅が広がりました。SSH指定校のメリットとして、実験器具などを充実させ、高度な実験に対応可能なことが挙げられます。理系への関心を高める講演会を開催したり、海外研修の費用の一部を助成したりすることもできるなど、理数教育を強く推進できる恵まれた環境が整っています。

――最後に、高校受験に向けて頑張っている受験生たちに、メッセージをお願いします。

 本校は、自分で考えたことを発信するのが面白いと感じる人にとって、ぴったりの学校です。やりたいことを自由な形で実現できるので、すでにやりたいことがある人はそれをどんどん進めていってください。逆に、まだやりたいことがないという人も、自分の興味・関心がどこにあるかを探り、実践的に見つけることができます。ぜひ、やりたいことを見つけに来てください。

森脇 本校の生徒たちには、幅広い選択権が与えられています。例えば、台湾交流プログラムや英国短期語学研修などの国際交流プログラムも、希望者参加型のものが多くなっています。選択肢が広いということは、判断する機会が多いということ。それに伴う責任もしっかり持って、自ら考え行動できる人に成長していってほしいです。文化祭や研究発表会など、いろいろな切り口から普段の学校の雰囲気を知ってもらえると、本校の魅力が伝わると思います。

――本日はありがとうございました。