【卒業生インタビュー】
「物語」への憧れを数学で現実に変えたい。SAPIXで身につけた基礎力で、目の前の「今」を積み上げて未来を切り開く
自由闊達な校風に魅力を感じて筑駒高を目指すことにしたK・Yさんは、中1の時にSAPIX中学部渋谷校に入室しました。苦手意識を持っていた国語を克服し、得意の数学を武器に筑駒高に見事合格。東大工学部を経て、マサチューセッツ工科大学(MIT)博士課程に進み、現在はAIの研究に打ち込んでいます。Yさんにとって、SAPIXでの学びは高校進学以降にどのように役立ってきたのでしょうか。
※本記事は卒業生本人への取材に基づくものであり、掲載した写真はご本人から提供されたものです。
新たに創造するAIを知的なパートナーとして確立し
世界全体の進歩に貢献したい
──MITではどのようなことを研究しているのでしょうか。
Y 私の研究分野は数学を突き詰めた先にあり、最終的な目標はAIのしくみを新たに設計して社会に実装することです。AIが目指すのは人間の脳内の神経ネットワークと情報処理機能をコンピューター上に再現し、思考を計算として捉えることにより、あたかも人間のように振る舞うことです。私はその計算をより効率化し、自然に学習・対話できるAIを設計することに取り組んでいます。
例えば、現在では物理計算によってボールの複雑な動きをゲーム内で再現することができます。それと同様、数学的アプローチでAIがより自然に知的に振る舞えるようにするのが私の役割だと思っています。
特に重視しているのは「創造性」です。AIが単なる計算ツールを超え、未知の問題に挑む創造性を備えれば、あらゆる科学技術の発展スピードを劇的に加速させることも可能です。AIを知的なパートナーとして確立し、世界全体の進歩に貢献したいと考えています。
──現在の研究テーマに取り組もうと思ったきっかけを教えてください。
Y 小学生の頃から『スター・ウォーズ』に熱中したり、『ハリー・ポッター』の世界を実現する方法を考えたりするなど、宇宙やファンタジーに興味がある子どもでした。その後、『ソードアート・オンライン』の作者である川原礫さんが描く未来像に憧れ、「この世界を現実にしたい」と強く思うようになりました。
大学では物理、宇宙工学、計数工学のどの分野に進むかで非常に迷ったのですが、最終的に数学を道具としてAIや脳の仕組みを解き明かす「コンピューターサイエンスと数学の融合領域」を追究する計数工学を選びました。決め手はこの分野が「今まさに最も面白い」と感じたことです。当時はちょうど第3次AIブームの真っただ中で、将棋や囲碁でAIが人間を凌駕するなど、社会的な関心が一気に高まっていました。世界的に見ても大きなうねりを感じる中で、この分野なら自分の原体験を形にでき、研究としての手応えも得られるはずだと確信したのです。
苦手を戦略的に乗り越えて一歩ずつ進む
「今」この瞬間に集中して自ら道を開く
──なぜSAPIX中学部を選ばれたのでしょうか。
Y 志望校である筑駒高の合格実績に加え、見学時の印象で決めました。SAPIXはターゲットとなる生徒が絞られ、雰囲気が洗練されていると感じ、自分に合っていると思ったのです。特に中1の数学の授業は先生の教え方が工夫されていて、勉強というより「ゲーム」のような感覚で、授業中も和気あいあいとした雰囲気でした。
クラスメートとの関係も、「受験のために戦う」というより、みんなで楽しく学んでいるような感覚が強かったですね。当時の友人とは今でも仲が良く、最近も集まって校舎や先生を訪ねたほどです。互いに支え合い、楽しみながら学べる素晴らしい環境だったと思っています。
──筑駒高を志望した理由をお聞かせください。
Y 何といっても「自由闊達」という校風に憧れたことです。他の学校と比べて自由度がかなり高く、制服がないことも含めて多くの面でしばりが少ない。授業も先生ごとに個性が強く、それぞれが「面白い」と思うことを軸に展開されていて、生徒側もそれを自由に受け止め、考えることができる雰囲気があります。
文化祭などの行事でも自主性が重んじられていて、自分たちで考え、形にしていく経験ができる点も魅力でした。そうした環境の中で、優秀で刺激的な仲間と時間を共有できることに大きな価値を感じていたと記憶しています。
──開成も自由といわれますが。
Y 確かにそうですが、筑駒との大きな違いは規模感にあると思います。開成は生徒数が多いため、さまざまな点で運営上に一定の枠組みが必要になります。
それに対し、筑駒は1学年約160人。人数が少ないからこそ、一人一人の裁量が大きく、個々が自由に動いても全体として不思議な一体感が保たれます。この直接的で密度の濃い自由な環境に大きな魅力を感じていました。
──受験生活でスランプはありましたか。
Y 入室当初は基礎クラスからのスタートで、思うように結果が出ない時期が続きました。範囲が決まっているマンスリーテストでは点数が取れても、より広い範囲から出題されるサピックスオープンになると思うように点数が取れませんでした。
しかし、基礎的な力が徐々に積み上がった結果、中2の夏ごろからサピックスオープンでも安定して点数が取れるようになりました。地道に学習していくことで少しずつ結果がついてきた、という感覚です。
ただ、中3の前半に英語の成績が伸び悩んだため、先生に相談したところ、過去問の長文を利用した速読や音読をするようアドバイスされました。そこで夏の間、その学習法に取り組んでみたらとても効果的で、制限時間内に解き終わらないという問題を克服することができました。
──数学が得意な方に多い「国語が苦手」という傾向についてはいかがでしたか。
Y 私もまさにそのタイプで、中2までは国語が一番の苦手教科でした。しかし、3年間一貫して教わった先生の指導により、「国語はセンスではなく論理で解ける」と理解したことで、中3から成績が伸び始めました。「出題者は何を聞いているのか」「文章の本質はどこか」を意識し、自分の解釈ではなく論理的に答えを導く手法を学んだことで、手応えが劇的に変わったのです。
この学びは大学受験でも生き、大学入試センター試験や東大の二次試験を軽々クリア。しかも、文章の構造を理解することで意図を読み取るという視点はどんな言語にも共通するため、現在では英語のライティングや研究論文を執筆する際の大きな武器になっています。
自らつかみ取った研究実績を武器に
未知の可能性を求めてMITへ
──アカデミアの道を選んだのはなぜですか。
Y 東大の学部卒業後の進路は、就職か進学か、非常に悩みました。日本の修士課程では就活の影響で研究に集中できる時間が足りないと感じ、選択肢を「学部卒での就職」か「海外大学の博士課程への進学」かの2択に絞りました。
就職は将来が想像しやすい半面、可能性を限定してしまうのではないか。であれば、あえて先が見えない方へ――。未知の可能性が広がるまだ見えない未来への期待から、学部卒業後すぐにアメリカの大学の博士課程に進むことにしました。
MITを選んだのは、まずAI分野で世界トップクラスの研究者が集まる環境への魅力を感じたからです。もう一つ、幼少期の憧れも大きな理由となりました。小学生の頃、テレビ番組でTED(※)の講演を見て、世界の第一線で活躍する人々が自分の考えや研究内容を語る姿に強い衝撃を受けました。また、番組内でMITの研究環境や先端的な雰囲気に触れる機会もあり、当時から漠然と「かっこいいな」という印象を持っていました。進路を決める際、その頃の記憶がよみがえり、自分の研究テーマと昔からの憧れが重なるMITへの進学を決めたのです。
※TEDとはテクノロジーやエンターテインメント、デザインなど幅広い分野について、世界の専門家が一堂に会して年1回開かれる講演会のこと。講演の動画はアーカイブで視聴できる。
──MITに入学するための準備はどのように進められましたか。
Y アメリカの大学の博士課程に進む際に最も重視されるのはそれまでの研究成果です。
学部3年時の課題のアイデアに対して、教授が「これは卒論レベルの研究になる」と注目してくださいました。それ以降は学校のカリキュラムに頼らず、興味のあるテーマを研究している教授に直接「研究に参加させてほしい」とメールを送るなどして、自ら機会を広げていきました。
結果的に、学部時代には三つの研究に取り組みました。最初は数学とコンピューターサイエンスが中心のテーマで、次はそこに脳科学の要素が加わり、最終的にAIの研究へと移っていきました。それぞれ論文にまとめ、提出先の教授に「自分の研究を読んでほしい」と直接アピールしました。
とはいえ、英語にはまだ苦手意識があったため、教授と英語で専門的な議論を交わせるようになれるよう、大学3年の後半から猛勉強して頑張りました。
現在は博士課程の3年目です。アメリカの大学の博士課程は、学生が学費を払うのではなく、逆に給与を受け取る研究者としての雇用に近い仕組みになっていますが、成果が出なければ去らなければならない厳しさもあります。そうした緊張感の中で日々研究に向き合っています。
──最後に、これから高校受験に挑む小中学生にメッセージをお願いします。
Y 進路やキャリアに「正解」はありません。大切なのは、選んだ道をどう生きるかです。2〜3年後ですら予想通りにはならないのですから、先のことを悩みすぎる必要はありません。
私自身、高校受験の際は東大進学を、東大入学時はMITでの研究生活を全く想像していませんでした。未来が予想と違う結果になるのは、むしろ面白いことです。もし進んだ道が違うと感じたら、その時にまた考えればいいのです。人間はそう遠くのことまでコントロールできませんから。
だからこそ、まずは今、手の届く範囲にあることに真剣に向き合ってください。目の前のやるべきことや自分が面白いと感じることに集中する。その積み重ねこそが、振り返った時にあなただけの道へとつながっているはずです。