インタビュー

【卒業生インタビュー】
慶應女子高から慶大・慶大院で法学の道へ。SAPIXでの体験を原点に、大学教員として民法の在り方と教育を探究し続ける

【卒業生インタビュー】<br />慶應女子高から慶大・慶大院で法学の道へ。SAPIXでの体験を原点に、大学教員として民法の在り方と教育を探究し続ける

SAPIX中学部高田馬場校で学び、慶應女子高に合格した金安妮さんは慶應義塾大学法学部法律学科に進みました。さらに、慶大大学院修士課程と博士課程で学び、単位取得退学後、武蔵野大学法学部法律学科の専任講師を経て、2022年に同大学准教授に昇任されました。お仕事の醍醐味と、SAPIXでの学びが今にどのようにつながっているのかを、金さんに語っていただきました。

法と教育を探究し続ける営みが
社会を支える力へとつながる

──大学教員という仕事について教えてください。
 大学教員には研究者と教育者という二つの役割があるのですが、研究者としては民法、特に債権法中心に、現行制度の課題を分析し、裁判例や学説の整理、諸外国との比較などを通じて、より良い民法の在り方を探究しています。主な研究活動としては学術論文や判例評釈の執筆、研究会での報告などが挙げられます。

一方、教育者としては民法の講義を中心に担当しており、中国法・韓国法を扱うアジア法の授業も受け持っています。ゼミでは、3年次には民法研究の入り口として判例研究の方法等を指導し、4年次には卒業論文の指導を行っています。また、3・4年生を通じて、就職活動を含めた進路指導にも力を入れています。

──将来的にどんなことに役立つ研究なのでしょうか。
 民法は「人生の必修科目」ともいわれるほど、私たちの日常生活と密接に関わっています。その内容に目を向けてみると、購入した商品に不具合があった場合に買い主は売り主に対してどのような請求ができるのか、交通事故が起きた場合に被害者は加害者に対してどのような請求ができるのか、婚姻を成立させるためにはどのような要件を満たす必要があるのか、といったことについて幅広く定められています。その中でも、民法の一つの分野である債権法は、主に契約関係のトラブルや交通事故などの不法行為によって生じた法的紛争を解決するためのルールを規定しています。

債権法を研究する社会的意義は大きく二つあると考えています。一つは個人や企業が安心して取引を行うことができるよう、契約に関するより良いルールの在り方を検討し、円滑な経済活動を支えることです。もう一つは交通事故などの不法行為において、被害者救済を図るとともに、加害者の責任の範囲を適切に定めることで、公平な紛争解決を実現することです。

従って、債権法について研究し、より良い法制度の在り方を考えることは、経済活動の活性化や人々が安心して暮らすことのできる社会の実現につながると考えています。

──大学教員にはどんな人が向いていると思いますか。
 大学教員には「研究」と「教育」の両方について適性が求められると思います。

研究面では物事に対して強い好奇心を持ち、「なぜ」と問い続けられることが重要です。また、課題を発見する力に加え、資料を丁寧に読み解き、自分の考えを論理的に言語化する力も求められます。

一方で、教育面では学生がどこでつまずいているのかを考え、できる限り分かりやすく説明するなど、学生の立場に立って物事を捉えようとする姿勢が大切であると感じています。

こうした研究に対する探究心と、学生の立場に立って物事を考えようとする姿勢の両方を持ちながら、粘り強く取り組める人が大学教員に向いているのではないかと思います。


「法律学は「言葉の学問」とも称されるとおり、あらゆる事象を言葉によって正確かつ適切に定義し、表現することが求められる学問です。そのため、SAPIXで学んだ「接続詞に着目し、文章を論理的に読み解く」という読解力と言語化能力は、研究者となった今でも私の根幹を支える不可欠な能力であると日々実感しています。論理の道筋を正しく捉え、一言一句を揺るがさずに思考を組み立てる力は、まさに法律を扱う上での基礎体力のようなもの。現在進行形で私の研究活動の中に息づいています」


塾が楽しいと思えた衝撃的な体験
学生に寄り添う今の指導の原点に

──高校受験に際し、なぜSAPIX中学部を選んだのでしょうか。
 数ある塾の中でSAPIXを選んだ最大の理由は、同級生たちの「先生がいい」という口コミでした。実際に体験授業を受けてみると、その理由がすぐに実感できました。特に印象的だったのが数学です。授業の説明が非常に論理的で、先生が示してくださる解法もシンプルで美しく、「こんなにきれいにも解けるのか……!」と感動したことを今でもよく覚えています。

教室には心地良い緊張感があり、先生方の授業はとにかく面白く、気がつけばいつもあっという間に帰宅の時間になっていました。そして、「授業が楽しい」「勉強が楽しい」と思えたこと自体が、当時の私にとっては衝撃的な体験でした。

中3になってからの入室でしたが、その1年は自宅よりもSAPIXにいる時間の方が長かったですね。授業の有無にかかわらず校舎に通っていたのは、先生方がいつも生徒一人一人を気にかけ、励まし、時には厳しく指導してくださっていたからです。

──中3からの入室だと不安が先立ちそうですね。
 はい。ですから、まずは「目の前の課題を完璧にこなす」ことに集中しました。宿題や小テストで毎回100点を取るという「当たり前」を愚直に繰り返したのです。すると、先生方も「本気」を感じ取ってくださり、中1・2の範囲を効率良く学ぶためのテキストを用意。授業外でも進捗を細かく見てくださいました。解いた問題を持っていけば、どんなに忙しくても丁寧に解説してくださったので、2年間の空白を着実に埋めることができました。

その細やかなサポートのおかげで、成績は順調に伸び続け、最高のピーク状態で入試本番を迎えることができました。SAPIXでなければ、SAPIXの先生方に出会っていなければ、今の自分はなかったと感じています。

自分が努力した分だけ先生方が真剣に向き合ってくださったというSAPIXでの経験は、現在、私が学生と接する際の原点にもなっています。

──クラスの雰囲気はいかがでしたか。
 SAPIXを語る上で欠かせないのが、ともに受験を乗り越えたクラスメートの存在です。教室には常に熱気があり、「少しでも前の方の席で授業を受けたい」と、皆が競うように早く校舎に来ていました。誰もが目標に向かってひたむきに努力している環境だったので、私自身も自然と頑張り続けることができたように思います。

SAPIXで出会った仲間とは、進学先こそそれぞれ異なりますが、今でも交流が続いています。年に数回集まったり、結婚式など人生の節目で顔を合わせたりする大切な存在です。最近では当時の友人が国政選挙に立候補し、当選したといううれしい出来事もありました。グループLINEでやりとりしながら皆で結果を見守り、当選が決まったときには自分のことのように喜びました。こうした関係が続いているのは、中3という特別な時期をともに過ごしたからこそだと思います。

それぞれの分野で奮闘している近況を聞くたびに、自分も頑張らなければと刺激を受けています。SAPIXで得たのは学力だけでなく、今も鼓舞してくれる仲間とのつながりでした。

学び方を変えた気づきの積み重ねが
成長を支える確かな力に

──苦手な教科はありましたか。
 私は数学が苦手で、「言葉だけの説明ではイメージしにくい」と感じていました。しかし、SAPIXの授業は耳から入る「理路整然とした解説」と同時に、目から入る「シンプルで美しい板書」を完璧に連動させて展開されました。言葉による論理的な理解と、板書による構造的な理解が同時に脳に届けられることで、それまで霧がかかっていた問題が、一気にクリアに見えてくるのです。この「耳と目からの同時アプローチ」がもたらす理解度の深さは、私にとって驚くべき体験でした。

こうした「聴覚と視覚との融合」はどの教科でも徹底されており、後れを取っていた私でも、その一貫した指導によって着実に成績を伸ばすことができました。

現在、自分が教壇に立つ際も、話すだけでなく視覚的に理解を促すことを重視しています。SAPIXでの学びは、今も私の教育の基本として生き続けています。

──質問の仕方もSAPIXで学んだそうですね。
 数学が苦手だった私は、「どこから手をつければいいか分からない」ということがよくありました。質問に行くと先生は、「質問の前に、まずは自分なりに考え抜くことが大切。間違っていてもそのプロセスに意味がある」とおっしゃいました。

この言葉は私の学習姿勢を大きく変えてくれました。すぐに答えを求めるのではなく、仮説や考えを整理してから質問することを徹底するようになったのです。もし、あの時すぐ答えを教わっていたら、考えることを放棄していたかもしれません。

現在、大学で教える立場になり、この言葉の意味をより深く実感しています。学生から質問を受ける際も、まずは自分なりに考えた上で質問するよう指導しています。たとえ結論が間違っていたとしても、「自分はこう考えた」という過程があることで、どこでつまずいているのか、どのように考えているのかを一緒に確認しながら、考えを深めていくことができるからです。

今振り返ると、SAPIXの先生はあの時、単に数学の解法を教えてくださっていたのではなく、自分で考え、試行錯誤しながら答えにたどり着こうとする姿勢の大切さを教えてくださっていたのだと思います。その経験は現在の研究や教育にも大きくつながっています。

──スランプはありましたか。
 成績が伸びていた夏、自分でも気づかないうちに慢心が生まれていたのだと思います。そのわずかな緩みを先生は見逃さず、「緩んできているぞ」と厳しい言葉をかけてくださいました。振り返ればスランプの入り口で引き戻してくれた愛のむちでした。

この出来事をきっかけに気を引き締め、秋冬の追い込みを乗り越えることができました。先生方は励ますだけでなく、正しい努力の方向を示し、伴走してくださったのです。

この「自分を律する姿勢」はその後も生き続け、今の自分の土台になっています。研究や教育の現場で粘り強く向き合えるのは、あの夏の経験があったからだと感じています。

──SAPIX中学部に通ったからこそ身についたと思えることはありますか。
 SAPIXで特に身についたと感じているのは、目標に向かって努力を続ける力です。先生方が提示してくださる課題はどれも「楽ではないが、努力すれば届く」絶妙な難度で、小さな目標を一つずつ乗り越えることで、最終的に慶應女子高合格という大きなゴールに到達できました。

この経験は現在の教育方針の柱にもなっています。学生が最終的に目指す大きな目標から逆算し、一人一人に合った適切な課題を提示することで、学生が達成感を得ながら成長できるよう、かつての私が導いてもらったように、今度は私が学生たちの歩みを支える伴走者でありたいと考えています。


「SAPIXの先生方は、生徒一人一人に合わせたきめ細かな対応を徹底されており、それは日頃の密なコミュニケーションがあってこそ可能だったのだと今改めて実感しています。いつも校舎に行くと、あいさつのトーンから「今日は少し元気がないな」「今日は何だか明るいな」と、先生方が私たちの様子を細かく気にかけてくださっていたのです。少し落ち込んでいる時にはすかさず「どうしたの?」と声をかけてくださるなど、常に生徒の状態を把握しようと努めてくださいました。入試前夜は不安のあまり校舎で号泣してしまい、先生から「やることは全てやった。明日はピクニックに行く気分で試験を受けておいで」と励ましてもらいました。

私自身もその経験を踏まえ、ゼミの学生とはなるべく密にコミュニケーションを取り、その様子を注意深く観察するよう努めています。学生が普段どおりであれば見守り、もし元気がなさそうなときは適切な声かけをすることで、必要なサポートをタイムリーに提供できるよう心がけています。先日も就活の最終面接に向かう学生に、私が入試前夜にかけてもらったのと同じ言葉で学生を送り出しました」

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