受験歳時記

[受験歳時記] 第20回「祭りばやし」

今年の夏の甲子園。特に準々決勝の第4試合は、100回目の記念大会にふさわしい劇的な幕切れでした。翌日のスポーツ紙は、連投の豪腕投手を「打者に応じた配球が実にていねい」と高く評価した後で「何でここまでやれるのか」と驚きのひと言を加えていました。

[受験歳時記] 第19回「バックホーム」

二つの時間 駅前広場に丸い形の人だかりができています。輪の中心では山高帽をかぶった恰幅のいい男性が、大道芸の真っ最中。左右に架け渡したロープの上にお皿を一枚滑らせながら、手元で三枚の皿をくるくる回し、さらに白いボールでお…

[受験歳時記] 第18回「森の風景」

夏至は過ぎても半夏生は越すな。稲の正常な生育のためには田植えは半夏生までに済ますものとされ、田舎の小中学校はこの時期に5日間ほどの「農繁休業」に入り、一家あげて田植え作業をしたものでした。7月2日は半夏生(はんげしょう)。――農作業の区切りですが、半夏は植物の名前。耳で聞くだけならば、表の面の半分だけが突然白く変わる花の様子を文字にした「半化粧」とでも書き間違えてみたくなるような名前です。上品でいてしなやかな、折れそうでいてたおやかな響きをもった季節を表す言葉です。

[受験歳時記] 第17回「薔薇」

ダイニングキッチンに置かれた白くて大きな冷蔵庫。そのすぐ横のベビーベッドの中で育った赤ちゃんが、最初に覚えた漢字は「目」だったそうです。なるほど、少し離れて眺めてみると、三段式の冷蔵庫は「目」という漢字に似ています。冷凍室・冷蔵室・野菜室、この三つが別々に飛び出してくる様子を毎日毎日見ているうちに、一画も二画も飛び越えて、いきなり画数が五画の「目」という漢字を覚えてしまったようです。

[受験歳時記] 第16回「ブランコ」

4月1日、店名が変わる百貨店、顔ぶれが変わる新銀行、新番組が始まるテレビ局、改編と刷新の4月のスタートです。ただ、今年の場合は、1日が日曜日ですから事実上2日が初日というところでしょうか。そして、カレンダーを3枚めくった7月も、末日を除けば4月とまったく同じ並びで31個の数字が並んでいます。まるで7月のカレンダーは4月と同じような数字の隊形を組みながら、暦の紙を3枚隔てたところから4月の様子をじっと見守っているかのようです。

[受験歳時記] 第15回「桜餅」

昨秋、ある男子校の学校説明会。会を終えた帰り、何気なくある教室に立ち寄ってみると、社会科担当の先生による「生徒の声」をまとめた1冊のノートが展示されていました。授業中などに聞きとめた生徒の言葉を集めたもので、書き写したくなるものもたくさんあったうち、最初のページの冒頭に載っていたのが ――「地理って現代史なんだな」という一言。

[受験歳時記] 第14回「チョコレート」

一日を終え、ようやく家に帰ります。そこで最初にすることは? 手洗い? うがい? いや、おそらくは多くの人がスマホの充電ではないでしょうか。バッテリー残量がほぼゼロのスマホは「お腹が空いたあ」と泣きだしています。大急ぎで電源プラグにつないであげると、ゴクリゴクリと、いかにもおいしそうに電気を飲み込んでいきます。しばらくすると、「満腹だあ」とでも言うように、自分でごろりと寝返りまで打ちました。どうやらねじれたままつながっていたケーブルが、たまたま反り返ったはずみで、裏返しにされてしまったようです。ケーブルを外して自由にしてあげると、母乳を飲み過ぎた赤ちゃんがかわいいゲップでもするように、小さく電子音を発しました。縦14・5センチ、横7センチ、厚さ0・6センチ。思えば何かにそっくりな大きさです。何だろうと考えているうちに、はたと思い当たりました。そうです、チョコレートです、板チョコです。

[受験歳時記] 第13回「新幹線」

犬がうずくまれば神奈川県、そして、海に向かってカニが歩き出せば愛知県――昔の地理の時間は、県の形を何かに見立てて県名を覚える、一種、図画の時間のようでもありました。そこからの応用で、たとえば鳥が翼を広げた形の長崎県から琵…

[受験歳時記] 第12回「リズム」

音から始まる1日 2階の部屋から下りてくる二人の息子。上の子はタタタン・タタタン~の変則的な拍子、下の子はタンタンタン・タンタンタン~と規則正しい三拍子。共通しているのは最後の10段目をドスンと大きな音で締めくくり、「行…

[受験歳時記] 第11回「渋谷駅」

スクランブル交差点 人差し指が道玄坂方面を、中指がセンター街方面を……右手のひらをいっぱいに広げたまま机の上に伏せてみると、目の前に渋谷駅前の地図ができあがるそうです。ドラマで、ニュースで、天気予報で、ほぼ毎日のようにテ…

[受験歳時記] 第10回「学校説明会 印象記」

今回は、秋の高校説明会。いくつか回った中での印象的な話をご紹介します。 A高校説明会 以前、国語入試で「トウイ錠」という書き取り問題が出題されました。「当胃」や「投医」などの誤答が多く、「糖衣」の正解率は1割未満だったそ…

[受験歳時記] 第9回「十五夜」

ハイヒール 鋭角のフォルムが紡ぎ出す11センチの摩天楼――婦人靴売り場、ハイヒールのコーナーにそんな広告が貼られていました。ヒールの高さには5、7、9、11、13、15センチの6種類があるそうで、おそらくは踏み出す靴先が…

[受験歳時記] 第8回「唇の動き」

羊羹(ようかん)とスイカ 数年前の4月1日、この日の朝刊に、社会人初日の新入社員に向けて〈鋭い切り口と尖った角がほしい〉といった内容の新聞コラムが載ったことがありました。その例として挙げられていたのは、羊羹でした。そこで…

[受験歳時記] 第7回「風船」〜心細さからの救い方〜

ガラスの前で 洋装店のショーウィンドウ。その前にぺたりと座り込んだ小さな女の子。お母さんがショッピングしている間、きれいに磨かれたガラスの表面に覚えたての文字をいくつも書いて遊んでいます。そこへ店の中から、若い女性の店員…

[受験歳時記] 第6回「シルキーボイス」〜声の音色〜

電車内にて 夜の電車内、つかまる吊り革の前の座席には2、3歳の小さな女の子が、その母親と一緒に座っていました。先ほどから車両の前の方で男性が2人、カバンを踏んだとか踏まないとかで、声を荒げています。成り行きを気にしつつも…

[受験歳時記] 第5回「お辞儀」~姿勢にこもる心の読み方~

黄色い傘 雨の横断歩道。信号の手前のわずかな窪みにも、あふれるほどの水たまりができ、小さな長靴も埋まってしまうのでしょう。小学生は、少しばかり道路にはみ出しながら青信号を待っていました。 一台の黒い車が放水車のように水を…

[受験歳時記] 第4回「体験記」~心のみちあと~

合格体験記 若い母親が、食卓テーブルに座りながらハガキを書いていました。すると、向かいの席からそれをのぞき込んでいた、漢字を覚えたての男の子が、こう声をかけたそうです。 「ねえ、ママ。幸っていう字って、逆さまにしても、幸…

[受験歳時記] 第3回「花の色、水の色」~親子で手にする高校受験という果実~

折り返しの色 「長時間にわたるケータイ機器使用、雑談、仮眠、読書、学習、瞑想はご遠慮ください」――コンビニの売り場横のイートインコーナーの注意書き。毎朝9時までは照明が落とされていますが、それでも女子中学生が2人、早々と…

[受験歳時記] 第2回 「雪ウサギ」~想像力と原理原則を理解する力~

2015年に開業した北陸新幹線。長野駅を過ぎて北信濃から県境にさしかかるあたりでは、毎年、この時期に「雪ウサギ」が現れます。山の中腹に消え残った雪がウサギの形に見えることからそう呼ばれていますが、不思議なのは、年によって雪や日差しの量が違うはずなのに、決まって山腹の同じ場所で「しゃがんだウサギ」の形に見えることです。同じ時期、同じ高さの所に雪が消え残り、人の創意では生まれえないアートが同じように描かれます。一見してウサギと分かる単純さ、平明さですが、毎年、必ずウサギの形に見えるように雪と光と土が織りなす仕掛けは、複雑、精緻の粋を極めています。

[受験歳時記] 第1回 「ふたつの手のひら」~祈りを包む手・願いを放つ手~

開門と同時に、舞浜の空高く湧き上がる歓声は、魔法の始まりを知らせるファンファーレのようです。ここは、東京ディズニーランド(TDL)。その全体マップを広げてみると、水をすくい上げるときの両手形のようで、過去を旅する左手から未来をのぞく右手へと、時間旅行も楽しめるのです。

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