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【大学受験を見据えて】一橋大学 入試の仕組みと学び

学校情報

入試を受けて入学するか、大学附属校からそのまま併設大学に進学するか。大学へと進む道は大別するとこの二つ。このシリーズでは、入試を経なければ入学できない大学ならではの「学びの魅力」を紹介していきます。

今回は、社会科学系の国公立大学では最難関といわれる一橋大学にフォーカスします。今年4月に72年ぶりに開設される新学部であるソーシャル・データサイエンス学部は、各方面から大いに注目されています。同大学ならではの教育と入試状況について解説します。

取材協力:Y-SAPIX

商法講習所として設立され学制改革で一橋大学に

一橋大学の歴史は、明治の政治家・外交官で、初代の文部大臣を務めた森有礼が、渋沢栄一らの協力を得て、現在の銀座に1875年に創設した商法講習所にまでさかのぼります。この商法講習所は実業人を養成するための教育機関であり、日本最古のビジネススクールとされるものでした。設立当初こそ森有礼の私塾でしたが、幾度かの改組・改称を経て、1920年には日本初の商科大学である東京商科大学となりました。

現在の国立キャンパス(東京都国立市)に移転したのは1930年のことでした。1885年以降は神田一ツ橋を拠点にしていましたが、関東大震災で校舎が壊滅的な被害を受けたため、段階的に国立市への移転を進めていたのです。

そして戦後の1949年、国立学校設置法に基づく学制改革に伴い、東京商科大学は改組して新制の一橋大学となります。この時、商・経済・法学社会の3学部が設置されました。2年後の1951年には法学社会学部が法学部と社会学部に分離し、2022年度まで続く4学部体制が確立しました。この時点で「社会科学の総合大学」としての陣容が整い、これ以降、社会科学系最難関の国立大学という評価が定着します。

なお、大学名の「一橋」は、国立市に移転する前の大学の拠点だった神田一ツ橋の地名に由来します。

緑豊かなキャンパスに近代建築の歴史遺産が点在

国立の地に移転してからでも90年以上の歴史を誇る一橋大学。木々の緑と丹精された芝生が広がる中、風格ある校舎が点在するキャンパスは、どこを切り取っても絵になります。

大学のシンボルの一つである兼松講堂は、東京の築地本願寺などで知られる建築家・伊東忠太によって設計された、1927年竣工のロマネスク様式の優美な建物です。その他にも、竣工が1920 年の本館、1929 年の東本館、1930年の附属図書館・時計台棟、1 9 3 1 年の旧門衛所、1932年の別館など、近代建築の歴史遺産として見るべき建物も多く残されています。兼松講堂、東本館、旧門衛所は国の登録有形文化財(建造物)に指定されています。

趣のあるキャンパスだけに、これまで数々の映画やドラマのロケ地になってきました。例えば、2012年公開のアニメ映画『おおかみこどもの雨と雪』は、大学の雰囲気をよく捉えた作品として知られています。

ソーシャル・ データサイエンス学部を新設

1951年以降は商・経済・法・社会の4学部体制で発展してきた一橋大学ですが、2023年4月、72年ぶりに新たな学部・研究科を開設します。文理融合型のソーシャル・データサイエンス学部・研究科(研究科は大学院)です。

現代はビッグデータの時代といわれ、私たち一人一人のポータルサイトの検索履歴やキャッシュレス決済の購入履歴など、さまざまな種類の膨大なデータが日々蓄積され続けています。こうしたビッグデータは「21世紀の石油」とも呼ばれる有益情報の宝庫です。活用の仕方によっては、従来存在しなかった全く新しい商品やサービスを生み出すことも可能です。データサイエンスとはこれらのビッグデータをリアルタイムに収集・分析し、そこから有益な知見を抽出しようとする、今注目の学問分野です。

ここ数年、データサイエンス関連の学部・学科を立ち上げる大学が相次いでいます。そこに割って入るのが一橋大学のソーシャル・データサイエンス学部で、その構想が公表されて以来、大きな注目を集めてきました。同学部がユニークなのは、単なる「データサイエンス」ではなく、「ソーシャル」を冠していること。一橋大学の「お家芸」といえる社会科学にデータサイエンスを融合させることで、ビジネスに革新をもたらし、山積する社会課題を解決に導くものと期待されています。

この新たな学部に求められる学生像としてまず問われるのは、基礎力としての数学の素養。アドミッション・ポリシーでは「数学の堅固な基礎知識とそれに基づく論理的な思考力」を求めることが明言されています。それと同時に、社会や経済への関心が高いことも重要です。同学部が目指しているのは、データを活用して社会課題の解決に取り組む人材の育成ですから、理系的な頭脳と社会的な視点が求められるのは当然かもしれません。

少数精鋭主義で、ゼミを重視 学部間の垣根の低さも魅力

一橋大学の学びの特長は実学がより重視されること。明治時代のビジネススクール、商法講習所が原点の大学だけに、大学で研究を続けるよりも、実社会で社会貢献をしたいと考える学生が多いようです。

それを物語っているのが大学院への進学率です。例えば、東京大学学部生の大学院進学率は50%前後、京都大学学部生の大学院進学率は60%前後なのに対し、一橋大学学部生(商・経済・社会学部)の大学院進学率は5〜7%(2020年度卒業生)です。

唯一法学部は法科大学院があることや司法試験の合格率が高いこともあってか、大学院進学率が17・1%(2020年度卒業生。他大学の法科大学院を含む)と他学部に比べてやや高めですが、それでも高い数値というわけではありません。ちなみに、直近3年間の一橋大学法科大学院の司法試験合格率は2020 年が70・6%、2021年が58・2%、2022年が60・0%でした。司法試験の平均合格率が40 %前後であることを考えると、全国トップレベルだといえます。

司法試験での合格を目指すのは、実社会で法曹(裁判官・検察官・弁護士)として活躍するためであり、実学以外の何物でもありません。やはり実学を重視する一橋大学の学生らしい志向といえるでしょう。

なお、大学院進学率が低いことは、就職率の高さの裏返しであり、これも一橋大学の大きな強みになっています。

学びのもう一つの特長は、伝統的に少数精鋭主義を貫いていること。授業では少人数制のゼミナールが必修科目として重視されています。ゼミは基本的に10人程度で構成されるため、教員と学生との距離が極めて近いです。

また、学部間の垣根が低いことも、一橋大学の特長として知られています。学部生は自分の所属する学部の開講科目だけでなく、他学部の開講科目も基本的に履修が可能なので、2023年度からソーシャル・データサイエンス学部が加わることで、全ての学生にデータサイエンスを学ぶ機会が提供されることになります。そうした意味でも、この学部を新設する意義は大きいといえそうです。

入試では第2次試験を重視 各学部で配点比重は異なる

最後に、入試について2023年度を例に見ておきましょう。

一橋大学に入学するためには、一般選抜前期日程、一般選抜後期日程、学校推薦型選抜という三つのうちのいずれかで合格しなければなりません。

入学定員は商学部258人(前期日程243人、学校推薦型15人)、経済学部258人(前期日程185人、後期日程58人、学校推薦型15人)、法学部159人(前期日程149人、学校推薦型10人)、社会学部220人(前期日程210人、学校推薦型10人)、ソーシャル・データサイエンス学部60人(前期日程30人、後期日程25人、学校推薦型5人)。

一般選抜を受験する場合、前期・後期ともに大学入学共通テスト(以下、共通テスト)を受験しなければなりません。受験に必要な教科・科目は、前期・後期ともに国語、数学ⅠA /ⅡB、外国語、地歴・公民、理科ですが、学部・日程で異なる点があります。前期の法・経済・商・社会学部は地歴・公民2科目受験が必須ですが、ソーシャル・データサイエンス学部は地歴・公民1科目でも“基礎”が付かない理科2科目を受験していればよく、理系受験生でも受験可能です。一方、後期の経済学部とソーシャル・データサイエンス学部は、ともに地歴・公民1科目のみで受験できるため、こちらも理系受験生でも受験可能です。

第2次試験の教科・科目は、前期の法・経済・商・社会学部は国語、数学、英語、地歴1科目ですが、ソーシャル・データサイエンス学部は地歴の代わりに数理的素養等を問う総合問題が課されます。一方、後期は経済学部とソーシャル・データサイエンス学部とも数学、英語の2教科のみです。

共通テストと第2次試験の配点比率は、前期は学部ごとにやや異なるものの、後期も含めておよそ1対3もしくは1対4と2次重視の比率です。また、配点の高い教科が学部によって異なります。前期の商・経済学部は数学が英語と並んで最も高い一方で、社会学部は英語の次に高いのが地歴です。ソーシャル・データサイエンス学部は前期・後期ともに数学が最も高く、数学の能力が特に重要です。

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