[受験歳時記] 第43回「体験記」

ハミング

ホームドラマの1シーン。「早く起こしてって頼んだのに!」と不満顔の息子。勢いよく玄関のドアを閉めて出て行った。やがて夕方、遠足から帰ってきた息子。バスの中で歌った歌か、ハミングする声が洗面台から聞こえてくる。朝はドアを蹴立てるように出掛けたのに、すっかりご機嫌で帰ってきた。よほど遠足が楽しかったみたいだね、と母親は口元を緩ませる。

SAPIX中学部のホームページに保護者体験記の最新版がアップされている。中でもほほえましいのは、塾から帰ってきた子どもが、塾での様子を母親に話して聞かせる場面。部活の疲れや、やり残しの課題で、心も体もしんどい日がある。それでも行けば何とかなる気がして、子どもは塾へ向かう。やがて、帰ってくると、塾でのことを土産話にあれこれ明かし、思い出してはまた笑う。子どもとそんなひと時を過ごしながら、母親は、心の中でハミングするように、こうつぶやく。「よほど塾が楽しかったみたいだね」

行って帰る

塾に行って帰るだけで、出掛ける前には浮かなかった顔が、なぜ明るい表情に戻っているのか。塾には毎回行くが、同じ日は一日とてない。心の感じ方が違い、頭の冴え方が違う。そんな日ごとに異なる変化の中から、自分に馴染む場を絞り込み、居心地良い定位置を探っていく。この時間、この教室でたっぷり頭を使い過ごしていることが、他事に気をそらさぬ今の自分に最もふさわしいことに思えてきて、浮かなかった気持ちまでも整ってくる気がする。だから、授業を終えて帰る道すがら、自分の中まで深々と掘り起こされたように晴れ晴れと感じられ、来るときよりも空が高く見えてくる。

水族館

保護者体験記にはこんな内容のものもある。体験記は優秀なお子さんとそのご家庭のもので、自分には縁がないことと思っていたが、今回、いざわが家で体験記を書くことになってみると、見方がまるで変わったというのである。

水族館は離れたところから見れば、魚が泳いでいるだけだ。が、巨大水槽の透明ガラスの真近で見ると、青い天空を回遊する魚の宮殿がいきなり迫ってくる。どうせ縁のない魚と見限っていたら、流れに身を置く魚の懸命さは分からない。体験記をまさかわが家が書くことになった現実感とは、圧倒的な水量に四囲を囲まれて魚になってしまったような水中感覚に近いものだったかもしれない。

第一本拠地

保護者体験記は、家族間に生起した葛藤の記録である。対立や衝突があり、失意の苦味もふんだんにある。それだけに真実味があり「一家に一冊」の必携本となり得るのだ。原稿は、書き手が味わった一連の思いをぜひとも表明したいという欲求から書かれているはずで、親子でひりつくような思いで過ごした日々を書き残しておきたいと思うことは、自然なことである。そして、わが家で起きた顚末は、どの家庭でも起こりうることを伝えることでもあるだろう。

受験が、次のような母親の言葉で締めくくられるとき、家庭はやはり憩いの場であり、活力の源、受験生にとってメンテナンスの第一本拠地なのだと改めて知る思いがする。
「いろいろあってハラハラとビックリの連続だったけど、楽しかったみたいだね」

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