「2020年 高校入試総括」安定した進学指導重点校の人気。一方で、都立からMARCHへの流れも進む

東京都は2020年度から、授業料助成の支給対象を年収760万円未満の世帯から910万円未満の世帯へと拡大します。国による就学支援金を加えた私学の授業料実質無償化は、従来の高校受験マップに大きな変化をもたらしています。では、今年の首都圏における高校入試にはどのような傾向が見られたのでしょうか。中学・高校受験に詳しい森上教育研究所所長の森上展安先生と、同研究所・高校進路研究会代表の佐藤潤平先生に伺いました。

公立校の受検率が低下するも、学力最上位校の難易度に変化はなし

――まずは都立から振り返ってください。

佐藤 この3年間で都立校の志望率は77%から72%へと5ポイント低下しています。要因の一つは私学の授業料軽減措置(実質無償化)。その結果、私立を第一志望にする生徒が増えてきています。今年度から対象世帯が年収910万円未満とさらに拡大されるだけに、その影響が気になるところです。

森上 もっとも、進学指導重点校などの難関校が易化したわけではありません。今年も青山や西が志願者数を増やしたように、学力上位層がこれらの学校を目指す構図に変わりはなく、難関校は引き続き厳しい競争が続くことが予想されます。

佐藤 一方で中堅校に目を移すと、偏差値だけではなく、英語や理数系、国際関連など、教育内容によって学校を選ぶ傾向が少しずつですが出てきています。

――進学指導重点校の人気が根強いなか、日比谷は志願者数を減らしました。

佐藤 一時期、人気が低迷していた日比谷ですが、近年、東大合格者数の伸びなどから一気に人気が高まりました。ここ数年で急激に難化し、今年は少し敬遠された面があるように思います。

森上 日比谷は開成や筑波大附属駒場と並ぶ最難関校の一角です。充実した教育内容はもちろんのこと、入学者全員が同じ3年間で完結することなどを含め、都立に魅力を感じる生徒も多いはずですから、このまま減少が続くことはないと思います。

――神奈川や千葉の公立校はいかがでしたか。

佐藤 神奈川は4校の学力向上進学重点校のうち柏陽以外は倍率が下がりました。昨年からその4校とエントリー校3校が特色検査を採用していますが、まだ目立った傾向は出ていないようです。千葉は、2021年から前期と後期の入試が一本化されます。先行した埼玉では難関校を回避する安定志向が見られたので、千葉においても同じような傾向が出る可能性はあります。

森上 千葉の場合、通学事情などから地域性がとても強いので、域内の学力上位層が目指す上位校への影響は少ないように思います。

私立校への授業料助成拡大により、都立からMARCHへの動きが加速

――では今年、どのような学校が志願者を増やしたのでしょうか。

森上 まずは私立の大学附属校ですね。

佐藤 特にMARCHが人気でした。附属校人気の背景には、私立校への授業料助成の他、大学入試制度改革への不安、大学定員の厳格化、高大接続を含め教育内容の評価などがあります。都立上位校からMARCHへという近年の傾向がさらに加速したというのが、今年の一つの特徴といえるかと思います。

森上 2017年に授業料軽減助成金制度が大幅に拡充されたのを機に、その傾向が顕著になりました。都立上位校の志願者層が私立へ、それも大学附属校へという流れは、今後もしばらく続くかもしれません。

図中の進学指導重点校とは、日比谷・西・国立・八王子東・戸山・青山・立川の7 校。上位都立とは、「進学指導特別推進校(小山台・駒場・新宿・町田・国分寺・国際・小松川)」と「進学指導推進校(三田・豊多摩・竹早・北園・墨田川・城東・武蔵野北・小金井北・江北・江戸川・日野台・調布北・多摩科学技術)」の合計20 校。いずれも一般入試の最終応募者数を見たもの。(データ提供:森上教育研究所)

――早慶についてはいかがですか。

森上 人気傾向は続いており、難化が高止まりしている印象があります。今年は早大本庄学院が面接を廃止したこともあって例年以上の人気を集めました。ただし、早慶に関しては、あまり注目されていませんが、実は高校からの方が入りやすい。早慶の中学受験はハイレベルな激戦です。しかし高校受験では、もちろん非常に難度は高いものの、それに見合う努力をすれば手が届く生徒もいるはずです。

佐藤 先述の早大本庄学院は基本的に全員が早稲田大学に進学できる直系の附属で、中学は併設していません。定員は男女合わせて250名を超えます。慶應も慶應義塾高と慶應志木高を合わせて600名もの大きな枠があります。

森上 女子は慶應女子のレベルが高く、選択の幅が狭いものの、中学受験よりも多くの人にチャンスがあります。

――その他、目立った動きなどがあれば。

佐藤 私立の単願が伸びましたね。入試相談制度による早期合格保証を活用して、これまで併願していた層が単願に切り替える動きが見られました。

森上 都立の推薦入試の人気が依然として高いのもそうですが、早く合格を決めたいという層が増えているということでしょう。

来年の入試の変更点など、学校HPで情報の収集を

――来年の入試動向についても一言ずつお願いします。

佐藤 大きなニュースとしては、豊島岡女子学園が2022年度から高校募集を停止します。同レベルの女子高がなかなか見当たらず、この層が来年どう動くかに注目です。

森上 普通に考えれば、都立の難関校へということなのでしょうが、もしかすると新たに進学クラスを設けるなど受け皿となる学校が出てくるかもしれません。

佐藤 他にも試験日や試験教科を変更する学校があるので、注意が必要です。それとやはり心配なのは、新型コロナウイルスによる影響ですね。

森上 オンライン授業など遠隔教育を実施している学校も多いですが、通信環境の違いによる教育格差を指摘する声もあります。各校どんな対応をするのか。来年の志願状況に影響する可能性は十分考えられます。

佐藤 履修の遅れが試験の出題範囲に影響を与えるかもしれませんし、学校によっても対応は異なるはずなので、ホームページなどで情報をこまめにチェックすることをお勧めします。

森上 不安を感じている受験生も多いかと思いますが、学習においては大切なのはやはり基礎・基本。ベースとなる基礎・基本の重要性はどのような状況でも変わらないはずです。できることを着実にこなしていく、そうした姿勢で学習を進めてほしいと思います。

森上教育研究所所長・森上展安先生(右)
高校進路研究会代表・佐藤潤平先生(左)

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