[受験歳時記] 第37回「スカーフ」

機内サービス

前の座席の女の子は飛行機が初めてか、しきりに辺りを見回しては、隣の母親に耳打ちし、何やらねだっている模様。気配を察した客室乗務員、しばらく中腰でその親子に話し掛けていたが、再び身を起こしたのを見て、驚いた。それまでの一点の華やかさが消えていた! 襟元を飾っていたスカーフがないのだ! どうやら自分のスカーフをほどき、女の子の首に巻いてあげたらしい。花びら模様も施されたオシャレな機内サービスだった。

クールダウン

今は就寝時間。寝付けないでいる母親に、先ほどの客室乗務員が、数を数えてみてはと勧める。羊の数では切りがない。993、986、979……と1000から7ずつ引いていく。脳がクールダウンし、眠りに就きやすいらしい。確かに偶数では簡単だし、5では5と0だけ。9では下2桁の和が10の反復だし、3では暗算には易しすぎる。でも7なら微妙に難しく、徐々にギアを下げていくのに適している。習慣的に足し算が得意な脳の活動を、引き算で逆回りにリセットして一日を締めくくることもできる。

種火

成果は努力の量に比例するという。努力は時間と熱意の積であるともいう。受験生にとって努力の量とは、一問一問に対して自問自答した回数のことではないだろうか。自分の頭で考えるとは、切り口を増やしながら考えを磨いていくことだ。残り日数が減るにつれ、積み重ねた努力は熱意のボルテージ、すなわち熱量そのものとなり、意欲へ、自信へと変わっていくだろう。そして、その熱意を突き動かし、熱量を増大させるものとは? 思うに、それは、それまで長く抱き続けてきた「憧れ」であるようだ。女の子にとって、すてきなスカーフ、寝付けないときの自然な入眠法、添えられた心遣い、それらが「空への憧れ」の種火となり、希望へ、熱意へと大きく着火していったように。

確信

「これはイケルかも!」と思う瞬間がある。煮詰まっていた頭のふたが、突然パカリと開いたような、ひらめくような確信を得る思いをすることがある。前号のスクエア198号の親子インタビューに、発表当日は涙をのんだが、翌朝一番、繰り上げ合格候補の通知を受け取る場面がある。その瞬間、母親は、今回の息子の受験における成功を確信したと述べている。discover(発見)とは、dis(反対)+cover(覆い)だそうで、覆いをはがすこと、ふたを取ることである。この母親の確信も、直線道路の信号が、一斉に青に変わる瞬間に立ち合ったような、くっきりと見通しのきく明確な発見だったに違いない。

目的地だけでなく、行き帰りでの機内が、車内が、風景が、旅をさらに思い出深いものにするものだ。その後、成人して、あの日と同じ航空会社の客室乗務員となった女の子。今日もどこかのフライト、どこかの空の上で、思い出深い旅の演出に一役買っていることだろう。「諦めないとは、憧れ続けること」をモットーに、すてきなスカーフを巻きながら。

ページトップへ