[受験歳時記] 第32回「暮らしの音」

ストローと家電品

テーブルの上のアイスコーヒー。風に押された白いストローが、グラスのふちをクルッと回った瞬間、ビュンと勢いのある音を立てた。続いて吹きつけた風を受けて、またもやビュンと威勢よく鳴った。まるで「俺はここにいるぜ」とでも主張するかのように、1本のストローが偶発的な自然音を奏でてくれる。読みかけの本の中身に、またすんなり戻っていけそうな楽しい演奏だ。

フローリングの床を動き回る掃除機の音が台所から聞こえてくる。急に音量が下がり、くぐもる音に変わったのは、隣のリビングのカーペットの上に移動したのだろう。こうして掃除機は、我が家の見取り図をなぞるように、家中の塵と埃をくまなく吸い込んでいく。ところが、その騒がしいはずの機械音には、なぜか勉強の能率を高めてくれそうなところがある。

子どもが好きな家電品ベスト3は掃除機、洗濯機、冷蔵庫だそうで、順にホエル君、ウナル君、ツブヤク君と名前を付けて、家の中の友達のように思っているらしい。掃除機は家中で吠えまくるし、洗濯機は放り込まれた洗い物たちに向かって「おとなしくしてなよ」と一言唸ってから行動を開始する。ただ冷蔵庫だけは、荷電されても重低音で呟くだけで動こうともしないが。

ホワイトノイズ

集中状態は、全く音がしないような環境からは得られない。水道の蛇口から垂れる水滴の音だけが聞こえるキッチンとか、見知らぬ誰かの軽い咳払いだけが聞こえてくる図書館とか、何か一つの音だけが耳に届いているような静けさがもたらすものだ。集中や睡眠を誘発する穏やかなざわめきを「ホワイトノイズ」というそうで、すべての周波数を吸収した音が常時流れていると心に安定感を与えるらしい。

試験が近づくと街中のカフェは学生で満席になるが、店内に流れる音楽も周囲のざわつく話し声も、まるで勉強を妨げない「ホワイトノイズ」の効果を果たすのは、単一の音の揺れや流れにぷかぷか浮かんでいるような寛ぎの中にあるからだろう。しかも、それらがストローや掃除機のような「暮らしの中の音」ならば、一層、集中に安心が加わり、平穏な音のカーテンの中で濃い時間を作り出すことだろう。

ペン回し

授業中、あちこちの席でペンがくるくる回っている。いったん止まったかと思うと、また回りだす。「そうか!」の閃きで急停止し、「いや、違う!」と考え直しては動きだし、「やはり、こうだ!」と強く確信して再び止まる。まるでペンというペンが命を得て、丁々発止の議論を闘わせているかのようだ。

目まぐるしい動きは、頭の中で描かれる思考の軌跡を同じ速さでそのまま指先で表しているようなもので、急停止したペンが再び回りだす時、グラスのふちのストローのようにビュンと勢いよく音を立てているだろう。同時に家電品たちのように「そうか!」と吠え、「いや、ちがう!」と唸り、「やはり、こうだ!」と呟いているに違いない。

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