[受験歳時記] 第30回「マラソンゴール」

励まし

ある“お仕事ドラマ”の一場面。広告会社の若手社員、明るい性格で取引先からも可愛がられていたが、断れない愛想のよさにつけこまれ、エスカレートする無理難題を次々押し付けられてしまう。救われない気持ちで対応する姿も痛々しい。ひとまずトラブルが収まった後でも、一連のつらかった日々を思い出しては時々泣き出してしまう。そんな悔しさに震える若手社員の話を受けとめながら、肩をぽんっと叩いて励ます先輩社員の一言がよかった。「よし、次、行こう」と。

「よし」で現状をまるごと容認し、「次、行こう」で気合いを入れ直す。まるで先取点を奪われたチームの主将が、攻守の交替時にチーム全員を鼓舞するような力強いハッパのかけ方です。もし、ここで「くよくよせずにプラス志向で前向きに」とでも言われたら、いかにもありがちな言葉で他人事として簡単に片付けられた気持ちしか残らない。励ましは、励ます側がかけたい言葉を口にするのではなく、励まされる側が必要としている言葉を探り当てられるかどうかでしょう。

団体戦

SAPIX中学部のホームページに、今春の高校合格者の体験記が掲載されています。その中に、学習状況や残り時間のハンディを決して諦める理由にせず、絶対追いつく!と挑戦の原動力に変えた帰国生がいます。「もう今さら」を打ち消し打ち消し、「まだ今から」と幾度も言い替えたことでしょう。また、ある生徒は「あと一人」で繰り上げ合格だった中学入試の悔しさを晴らそうと、受験勉強をスタート。やがて中二のとき、自分を包み込む雰囲気に強く惹かれる高校に出合い、進学を志望。電車内でも食事の合間も気持ちを張りつめることで絶望感や危機感をはねのけ、自分に鞭打ち、目標めがけて疾駆する様子が書かれています。

いずれの体験記にも共通するのは、受験を終えてから、皆、同じ思いに立ち至っていることです。受験は百人百様、それぞれ徹底した個別の奮戦、ひとりぼっちの個人戦ですが、合格後には家族や友達、周囲とのチームワークによる成果だった、つまりは団体戦だったと、思いを新たにしていることです。

感謝離

マラソン中継ではよく、完走し終えた走者がゴール直後、くるりと振り返り、深々と頭を下げる姿が映し出されることがあります。走り抜いた42.195キロの一本道に、倒れそうになった自分を支えてくれた「励ましの神」が宿っている気がするのでしょう。湧き上がる深い感謝の念と同時に、沿道で振られていた無数の小旗の白さも瞼(まぶた)に蘇ってくるでしょう。自分にとっての恩人たちの存在とは、彼らの目の前を通過してから初めて知れるものと痛感していることでしょう。

物事を潔く始末するスタイルが「断捨離」ならば、人から受けた有り難みを始末することなく大切にしながら、次の空へ飛び立つことを「感謝離」というそうです。「よし、次、行こう」と互いに声をかけ、感謝しながら離陸していくのです。

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