昨今は、戦後最大規模と称される教育改革の最中にあります。現在の小・中学生は、その全員が改革による変化に直面する世代。情報収集を欠かさず、適切な方針のもとに学習を進めることが大切です。
教育改革の大きなトピックは、「大学入試改革」と「小・中・高の新学習指導要領」、そしてこれらと関連して進められている「英語教育改革」の三つです。なかでも英語教育改革は、入試や学校の授業に与える影響の大きさもさることながら、現代のグローバル社会において英語の重要性がますます高まり続けていることからも、とりわけ大きな注目を浴びています。
ここでは、英語教育について、いま何が起きていて、これから何が起きていくのかを整理しました。加えて、小・中学生が押さえておきたいポイントにも触れていきます。英語学習を進めるうえでの心構えとして、ぜひ、参考にしてください。
教育改革の概要
背景と目的
社会情勢の変化に伴い、社会活動において求められる力が変化しています。知識のみならず、思考力・判断力・表現力や、主体性を持って多様な人々と協働する力がより一層求められるようになりました。また、グローバル社会の進展により、本人の居場所や志向を問わず、「英語を使う力」の必要性が高まっています。こうした背景の下、現代社会で活躍するにあたり必要となる力を、学校教育を通じて養成する仕組みをつくることが、教育改革の目的です。
教育改革の中の英語
教育改革の目的の一つに、「英語を使う力」を伸ばすことがあります。この目的を達成するための鍵となるのが、「聞く」「読む」「書く」「話す」の英語4技能の強化です。そのために、「新学習指導要領」を通じて、小・中学校、高校の英語の授業へのてこ入れが行われます。また、「大学入試改革」を通して、大学入試の段階で、受験生がそれまでに培ってきた英語4技能が総合的に測られるようになります。
教育改革のスケジュール概要(2018年度~2024年度)
☆印は英語に関連するポイント
2018年度 |
一部の小・中学校で「新学習指導要領」を先行実施(先行実施のない小学校では、移行措置を実施。先行実施と移行措置のどちらを採用するかは、自治体や学校ごとの判断による。) ☆2018年5月時点では、全国の小学校のうち約3割が全面実施後と同様の時間数で外国語の授業を実施。その他の小学校でも、英語の授業が15単位時間以上増加
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2019年度 |
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2020年度 |
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2021年度 |
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2022年度 |
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2024年度 |
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(2019年11月現在)
また、こうした流れに呼応して、高校入試の英語4技能化も始まりました。その例として、大阪府や福井県の公立高校における民間検定試験の活用や、都立高校における「スピーキングテスト」導入に関する議論などが挙げられます。今後、高校入試の英語4技能化は一層広がっていくものと考えられます。
英語教育改革で何が変わるのか
小学生 英語の学習開始学年が前倒し。小5・6生では英語が教科に
2020年度から小学生の新学習指導要領が全面実施されるのに伴い、英語の授業が以下の通り変わります。なお、自治体・学校ごとの先行実施が2018年度から認められています。また、2018年5月の時点では約3割の小学校が、新学習指導要領実施後の時間数で英語の授業を行っています。
小学3・4年生「外国語活動の実施学年が前倒しに」
従来、小学5・6年生を対象に行われていた「外国語活動(英語)」の授業が前倒しとなり、小学3・4年生からスタートします。年間の時間数は35単位時間なので、週1コマ程度の授業が追加で実施されることになります。外国語活動の授業の目的は「英語に親しむ」ことで、英語での「聞く」「話す(やり取り)」「話す(発表)」の2技能3領域*におけるコミュニケーションが中心です。
- *領域とは
- 新学習指導要領においては、「話す」ことを、さらに「やり取り」と「発表」との2領域に分類し、「聞く」「読む」「書く」「話す(やり取り)」「話す(発表)」の5領域を通して、英語で伝え合う力を養成することとしています。
外国語活動は「教科」ではないため、成績はつかず、検定教科書も存在しません。授業内容は学校や自治体ごとに決定できますが、語彙に関しては、小学3~6年生までの授業を通じて600~700単語程度を習得するよう、新学習指導要領で目標が設けられています。また、文科省からは『Let’s Try!』という外国語活動教材と、この教材を活用した指導計画・学習指導案が提供されています。
小学5・6年生「教科としての英語がスタート」
「教科」として「英語」の授業が始まります。年間70単位時間の授業となり、実施頻度は週2コマ程度です。
外国語活動の目的は前述の通り「英語に親しむこと」でしたが、教科化後は「英語によるコミュニケーションスキルの基礎を養う」ことに目的がレベルアップします。授業内容が4技能5領域化され、「聞く」「話す(やり取り)」「話す(発表)」に「読む」「書く」が加わり、さらに、中学校以降で学習する英語と連続性を持ったカリキュラムが組まれます。
外国語活動と異なり、教科としての英語には成績がつき、授業では検定教科書が使用されます。語彙の習得数に目標が設けられ、小学校を通じて600~700語程度(現行の中学校の目標語彙数1200語の約半分)の習得を目指します。文法は疑問詞、代名詞、動名詞、助動詞、動詞の過去形などを使った基本的な表現を学び、これらは現行の中1生の学習内容を多く含んでいます。
【ここに注目】「先行実施の有無で学力差が開く懸念が」
すべての小学校で、教科化された英語の授業がスタートするのは2020年度からです。しかし、一部の小学校(2018年5月時点で約3割)では新学習指導要領全面実施後と同様の時間数で授業が行われています。(一方、その他の小学校でも、英語の授業が年間で15単位時間以上増加しています)。
また、先行実施のある小学校では、既に「教科としての英語」を学んでいます。現在の学習指導要領における「外国語活動」の授業との違いをまとめると以下の通りとなります。
外国語活動 | 教科としての英語 | |
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内容 | 「聞く」 「話す(やり取り)」 「話す(発表)」 |
4技能5領域 |
目標語彙 | なし | 目標語彙数600~700語程度 (現行の中学校の目標1200語の約半分) |
文法 | なし | 現行の中1生で習う文法事項の多く |
成績 | なし | あり |
学ぶ内容に上記のような差があることから、先行実施により英語を教科として学んできた小学生と、そうでない小学生との間に、中学校入学段階での英語の学力に差が生じてしまうことが懸念されます。
また、学習量や学習時間が多ければ、その分だけ英語の力が多く蓄積されていくため、小5から英語4技能5領域をしっかりと学んできた生徒のほうが高校受験でも有利になると言えます。2019年現在、小学校高学年にあたる方は、この点を踏まえて、学習計画を立てる必要があるでしょう。
中学生 授業内容がレベルアップ。高校入試が今後どう変わるかがポイント
中学生の新学習指導要領の実施は2021年度からですが、小学生と同様に、一部の中学校では、自治体や学校ごとの判断で先行実施が可能です。
授業では英語4技能のうち、「聞く」「話す」のウエイトが従来よりも上がり、習得語彙数や文法事項も増加します。高校入試も影響を受け始めていて、今後、傾向がどのように変化していくかを注視する必要があります。
授業がAll-English化。「聞く」「話す」学習が大幅増
文科省発表の「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」によると、中学校の英語の授業についても、「授業を英語で行うことを基本とする」という方針が示されています。これは授業内でのコミュニケーション全般を基本的に英語で行うことを意味していて、教師から生徒への説明はもちろんのこと、生徒から教師への質問や発表、生徒同士のやり取りまで、すべて英語で行うということになります。
中学校の授業を実際のコミュニケーションの場面とし、生徒が英語に触れる機会を充実させることで、より高度な学びに円滑につなげられるようにすることが、この取り組みの目的です。高校では既にAll-Englishの授業を行っている学校もありますが、それが中学校の授業にまで広がることになります。
習得語彙数と文法事項の増加
小学生と異なり、授業時間数は現行から変わりませんが、学習内容はレベルアップします。まず、習得語彙数が、現状の1200語から1600~1800語に増加します。さらに、従来は高校過程で学習していた仮定法や原形不定詞といった文法事項が加わります。

【参考】小中高における新学習指導要領実施前後の目標単語数の比較
中学校の英語授業の変化内容まとめ
新学習指導要領 | |
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語彙 | 1600~1800語に増加 |
文法 |
以下が追加
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領域 | 話すことに、[やり取り]と[発表]が追加 |
授業 | 英語で行うことを基本とする |
内容 | 思考力、判断力、表現力等を重視 |
【ここに注目】「高校入試への影響」
2019年現在では高校入試の英語4技能化は限定的なものとなっています。ただし、今後に控える中学生の新学習指導要領の実施や大学入試改革の影響を受けて、大きく状況が変わる可能性が十分にあり、注意が必要です。
高校入試への現時点の影響例「4技能化」
東京都 |
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大阪府 |
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福井県 |
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また、学校ごとに差はあるものの、高校入試英語の出題傾向についても、すでに大きな変化が見られます。高校の新学習指導要領の目標の一つには「コミュニケーションを行う目的や場面、状況などに応じて、日常的な話題や社会的な話題について、英語で情報や考えなどの概要や要点、詳細、話し手や書き手の意図などを的確に理解したり、これらを活用して適切に表現したり伝え合ったりすることができる力を養う」というものがあります。
これには従来の暗記型の学力や、英文を和訳することに終始するような力ではなく、例えば「英文を速読したり、聴いたりして全体像を掴み、文意を理解してアウトプットを行う」といった能力が必要となり、まさに教育改革の中で養成が目指されている、英語を使う力や、思考力・判断力・表現力が求められることになります。難関校の入試問題には、こうした力の素養を入試段階から測ろうとしている意図が読み取れるものがあります。
高校入試における英語の出題傾向の例
早実高 |
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都立西高 (自校作成問題) |
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都立青山高 (自校作成問題) |
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高校入試は、今後も一層変化していくことが予想されます。引き続き傾向の変化を注視することと、英語4技能と思考力・判断力・表現力をトータルに伸ばしていく学習姿勢が求められます。
高校生 大学入試改革による英語4技能化。改革と時代の変化見据えて授業を工夫する高校も
大学入試改革は、2020年度と2024年度に大きな変更があります。現時点で分かっていることを、2020年度の英語改革を中心にまとめると以下の通りとなります。
変わる時期 |
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施行調査に 見られた変化 (英語) |
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大学入学共通 テストの特徴 (英語以外) |
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外部検定試験の 活用方法 |
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※2019年11月現在
2020年度以降の大学入試では、従来と比較して、高い英文読解力やリスニング力、「書く」「話す」ためのアウトプット力、そしてそれらの基礎となる確かな文法力や語彙の活用能力が求められるようになります。こうした力は一朝一夕では身につきません。小・中・高を通じて、しっかりと力を養っていく必要があります。
*CEFRとは
「外国語の学習・教授・評価のためのヨーロッパ言語共通参照枠(Common European Framework of Reference for Languages: Learning, teaching, assessment)」のこと。
A1~C2の6つの等級があり、A1/A2レベルは「基礎段階の言語使用者」、B1/B2レベルは「自立した言語使用者」、C1/C2レベルは「熟達した言語使用者」であるとされています。例えば、CEFRの等級に英検®を当てはめた場合は、英検®3級だと最も初歩のA1レベル、英検®2級でA2~B1レベル、英検®1級でB2~C1レベルであるとされ、最上級のC2レベルに達する英検®の試験は存在しません。
- 【参考】文部科学省:「各試験・検定試験とCEFRとの対照表」(外部リンク)
- 【参考】文部科学省:「各都道府県の中学生・高校生のCEFR A1・A2到達状況」(外部リンク)
※リンク先の資料4ページ目に掲載
【ここに注目】大学入試改革に呼応して、変わる高校の授業
高校の新学習指導要領実施後は、中学校で培われた能力を基に、ディスカッションなど、より発展的・高度化された授業が行われます。新学習指導要領の実施は2022年度、先行実施は2019年度ですが、高校によってはいまから大学入試改革を見据えた英語の授業が行われています。
高校が行う特徴的な取り組みの一例として、以下のようなものがあります。
- 「シャドウイング」や「オーバーラッピング」などを取り入れた、英語の音を大切にした授業
- ネイティブ講師を交えたチームティーチングやディスカッションなど、アウトプット訓練の重視
- アカデミックなテーマの英語原書を使用したリーディング訓練
- 海外派遣プログラムや留学プログラムの充実
- CEFRに準拠した外部検定試験の活用
大学入試やその先の社会での活躍に向けて、英語力の向上に力を入れたい場合は、こうした取り組みを行う高校を進路の一つに加えてみるのもよいでしょう。
情報収集を欠かさず、早期から適切な学習準備を
英語教育を取り巻く環境は現在進行形で変わっています。本記事では小・中・高の英語教育改革の概要と、小・中学生のうちから注目したいポイントに触れましたが、今後も引き続き注視していく必要があります。それぞれの入試とその先の社会での活躍を見据えて、小・中学生の段階から英語力を積み上げていくことが理想です。
- 英検®は公益財団法人 日本英語検定協会の登録商標です。