[受験歳時記] 第51回「過去に学ぶ」

動く学習室

新学年最初の定期試験が近いのか、右も左も鞄を机代わりにして歴史の教科書を広げている。ほぼ車両1両分が間隔を空けて座る高校生たちの「動く歴史学習室」と化している。まだまだ真新しい教科書のようだが、そのうちページの端がめくれだし、少しずつ丸みを帯び、手に馴染み始める春である。

踏切番

長年、踏切番による手動式だった遮断機が最近自動化され、それを伝える小さな記事が地元の広報誌に載っていた。そこに書かれていた、今回でお役ご免となった当該現場の踏切番のコメントが興味深かった。「踏切で長々待たされた人たちは、私のほうをチラチラにらみながら通ることが多いのですが、でも実は、遮断機は下ろすことではなく、上げることが目的なんです。流れを一時的にせき止めることで、逆に流れをつくっているんです」

渡航制限のためか、海外紀行風のテレビ番組が目立ち、今も画面にはアムステルダム郊外ののどかな風車小屋が映っている。ナレーションによると、アムステルダムという地名はアム(川)ステル(港)ダム(堤防)が語源だそうで、いかにも海抜の低い土地に由来する都市名だが、ダムもまた遮断機と同様、一時的に水をせき止めることで轟音とどろく大瀑布のような流れを作りだす。せき止められた力が地を揺らして落下する水のエネルギーへ、そして電気へと変わっていく。

Insight into English

SAPIX中学部のYouTubeチャンネルで、新しい英語の動画シリーズ「Insight into English」が始まった。そこでは、英単語の語源に注目することで、有機的につながる周辺の語群を含めた理解が可能になることが明かされている。決め手は英単語を区切る、語の幹と前後の接辞とに分けてみるという手法で、単独に見えていた単語の周りには砂鉄が磁石に吸い寄せられるように、面白いほどの数の派生語や関連語がひしめいていることが分かる。単語の中間部にスラッシュを入れるだけで、切れた鎖がかえって言葉の来歴を語ってくれるのだ。分ければ分かる、区切ると流れが見えてくるというわけだが、語彙の増強という当面の効果はもちろん、そもそもの語源に由来する言葉のつながりとは、文字の並ぶ順番が作りだした歴史の流れであるという大きな背景が見えてくるだろう。

動画の最後では、二つの形容詞の使い分けについて、電子レンジと辞書の役割を例に取り上げ、納得の解説で終了する。ただし、それで見終えておしまいの画面にするにはもったいない締め括りであって、ここに登場する二つの形容詞は、やや大げさに言えば、人の暮らしを利する文明の利器と人類の知的基盤に資する文化的所産との比較をしてみることの意義を示唆している。そして、その探究を可能にするのは、個々の場面に最もふさわしい形容詞を正しく使い分ける訓練と言葉への敏感さであることを物語っている。

高校生たちが広げる歴史の教科書も、語源をたどる英語学習も、過去に学んで知る喜びを感受できるのは、ただ勉学をおいて他にないことを教えてくれることだろう。

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