[受験歳時記] 第16回「ブランコ」

公園で

4月1日、店名が変わる百貨店、顔ぶれが変わる新銀行、新番組が始まるテレビ局、改編と刷新の4月のスタートです。ただ、今年の場合は、1日が日曜日ですから事実上2日が初日というところでしょうか。そして、カレンダーを3枚めくった7月も、末日を除けば4月とまったく同じ並びで31個の数字が並んでいます。まるで7月のカレンダーは4月と同じような数字の隊形を組みながら、暦の紙を3枚隔てたところから4月の様子をじっと見守っているかのようです。

公園で女の子が二人ブランコで遊んでいます。背丈が同じなので双子かと思いましたが「お姉ちゃん、背中押して~」と甘えているほうが妹のようです。さすがに一人でこげないブランコはつまらないのでしょう。かくれんぼは鬼の知恵と作戦で探してほしいのではなく、自分の知恵と力を働かせて見つかるまいと思って隠れているから楽しい遊びなのです。同じようにブランコも、人の力で揺らしてもらうよりも、自分の力とバランスで横板に強弱をつけながら、ギーギーギーとこいでみるから楽しいのでしょう。ブランコは、あたかも一人遊びの予行演習であり、他者の影響やサポートを受けずに、一人で遊べるようになるための練習遊具なのです。

大きな振り子

紐の長さが同じならおもりの重さに関係なく一往復する所要時間は同じ――そんな「振り子の等時性」から、二人同時に「1、2の3」でこぎ出せば、姉妹は同時にこぎ出した位置に戻ってこられます。これまですべて姉の世話に任せっきりで、まるで姉にかなわなかった妹にとっては、ブランコが姉と肩を並べることのできる初めての機会であることも楽しさの一つなのでしょう。

ブランコは、ひと揺れすれば戻ってくる鎖でできた、大きな振り子です。鎖の長さが1メートルならば、押して戻ってくるまで片道1秒、往復2秒。単なる遊具のはずなのに、時計の発想と時間の概念も潜んでいます。妹の背中を一押しすれば、ゆら~り、ゆら~りと前に乗り出した妹が、やがてゆっくりと風を連れて戻ってきます。意外なことに妹は、一つ、二つ歳を重ねた少女となって風の中を戻ってくるかもしれません。そういえば、ブランコは春の季語です。お下げだった髪が肩先まで伸び、黄色い園児服を赤いスカートに替えて、春風の中を揺れながら戻ってくるかもしれません。

自立と自律

学校説明会に出かけると「本校の教育方針は自立と自律です」という話をよく聞きます。ただ、その「自立と自律」の微妙な違いが分からないまま戻ってくることが多くあります。

対義語では「依存と他律」ということからすると、「自立」は他に頼らない、力を借りない、「自律」は他に縛られないというような意味になるのでしょうか。たとえばコマは回り始めるまでは他からの力が必要ですが、いったん回転し始めるや、きりりと自力で回り出し、床面に「自立」し、まっすぐ立ちます。他のコマが近寄っても小台風のような渦を巻きつつ、撥ね付け、撥ね返し、回転運動の統制下で「自律」し、倒れようとしません。いわば、コマにとって回り続けることとは倒れないでいることでもあり、自立と自律は表裏一体、同じコインの裏と表を言い換えているだけなのかもしれません。

それでも、あえて、ブランコに乗った女の子について、二つの違いを意味づけるとすれば、ブランコの横木に立ってこぎ続ける両脚の力は他人の力を借りない「自立」の力、そしてお姉ちゃんがお出かけしてしまった一人ぼっちの日、そのさみしさに影響されずに泣かないで遊び続けられることは「自律」の力だと言えそうです。

4月と7月は、まるで見分けのつかない双子の姉妹。春の暦は夏の暦の前ぶれであって、4月の過ごし方には夏の時間が忍び込んでいます。4月を姿勢よく過ごすには、背筋を伸ばすこと。そして背筋をきれいに伸ばして歩くには、胸を張ること。さらに胸を張って新学年、新年度の中を歩いて行くには、胸に目があると思いながら進んでみること。そんな「胸の目」でまっすぐ前を見るつもりで歩いてみると、ぴんと姿勢のよい歩き姿ができあがります。そうしたあなたの4月の歩行姿勢を、7月のお姉さんカレンダーが見守っていてくれるかもしれません。

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