[受験歳時記] 第10回「学校説明会 印象記」

今回は、秋の高校説明会。いくつか回った中での印象的な話をご紹介します。

A高校説明会

以前、国語入試で「トウイ錠」という書き取り問題が出題されました。「当胃」や「投医」などの誤答が多く、「糖衣」の正解率は1割未満だったそうです。

このことを、学校説明会では、日常会話での「使用語彙」ではなく、書き言葉での「理解語彙」に問題ありと分析していました。つまり、普段の生活で使わない語彙でも、文脈や用例から推測して書けなければいけないというわけです。しかし、甘くコーティングされた薬の存在を知らない中学生には書けないはずで、「糖衣」という漢字の「字」ではなく「語」そのものを知らない限り、大人でも難しいのでは、という気がしました。

例えば、健康番組でカウンセラーにいきなり「ビタミン野菜をケイコウセッシュしてください」と言われても、にわかに意味が分からない。でも、「ホウレン草など緑の野菜を食べるようにすればいいのですね」と司会者が翻訳してくれれば、視聴者には「経口摂取」という漢字が思い浮かぶというものです。正しい答えを一つずつ覚える「暗記の教育」は受けても、正誤の判別がつかない中から正しい物だけを見分ける目、聞き分ける耳を身につける「記憶の学習」を積まなければ、正しく「糖衣」とは書けないのかもしれません。

B高校説明会

「最後に受験生の名言を」と言いながら、スライドはラストの1枚に切り替わりました。「北国の海沿いの町から東京の大学を目指す2人の高3の女子生徒。受験間近でのその2人の名言です」と、そこに映し出されたのは「寒いね」「うん」の二言だけでした。

空の色が日ごとに深くなる秋が過ぎ、やがて日に日に海の色が深くなる冬。夜8時までの校内自習時間を終え、夜道を2人で帰ったときに交わした言葉だったそうです。「頑張ろう!」とか「しっかり!」とか互いに言葉にして励ますよりも、一緒に一枚の毛布にくるまりながら、寒気に思わず口をついて出てしまったかのような言葉の自然さが、細いながら芯のある女の子の声となって会場を満たしている気がしました。誰からともなく起こった拍手はしばらく鳴りやみませんでした。

C高校説明会

寮のある地方の高校の説明会。都会出身の新入生、4月の入学式を控え、家を離れる日も近いある日、その日も建設現場の仕事に出かける父親が、たまたま食卓の上に弁当を忘れて行った。仕事先に届けようとして弁当箱を持ってみると、やけに重い。親父はこんなにも大食漢なんだなと、半ばあきれながら、なにげなく弁当箱を開けてみたら、重いのはたっぷり詰めたご飯のせい。あとは梅干し数個と味噌のかたまりが脇にのっているだけでした。

何年か後に、家に残った姉から聞いた話だと、何年も学費、旅費、寮費がかさみ、家中で家計を削りに削って弟のあなたを行きたがっていた高校へ送り込んだのだという。寮に居れば食欲旺盛の中高生が相手です。おいしいおかずがふんだんにふるまわれます。しかし東京の実家では、そして汗水垂らして働く父は、こんな白飯だけの弁当で来る日も来る日も、あのきつい現場仕事をしていたのか、と骨身にしみて痛感したそうです。「親御さんにはそれだけのお金の負担をしていただいていますが、それに必ず報いるべきであることを本校スタッフは片時も忘れたことはありません」

話の後半あたりから、会場のそこかしこで、白いハンカチの花がちらほら見え始めていました。

昔、受験生特集の短歌に「豪快に ママが笑って いるような いなり寿司三つ 模試の弁当」というのがありました。遠い都会の父を思って口にする米粒も、いなり寿司にくるまれた中から笑って励ます白米の粒も、言葉を発しないだけに言葉以上のものを伝えているような気がします。

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