[受験歳時記] 第2回 「雪ウサギ」~想像力と原理原則を理解する力~

雪と光と土の仕掛け

2015年に開業した北陸新幹線。長野駅を過ぎて北信濃から県境にさしかかるあたりでは、毎年、この時期に「雪ウサギ」が現れます。山の中腹に消え残った雪がウサギの形に見えることからそう呼ばれていますが、不思議なのは、年によって雪や日差しの量が違うはずなのに、決まって山腹の同じ場所で「しゃがんだウサギ」の形に見えることです。同じ時期、同じ高さの所に雪が消え残り、人の創意では生まれえないアートが同じように描かれます。一見してウサギと分かる単純さ、平明さですが、毎年、必ずウサギの形に見えるように雪と光と土が織りなす仕掛けは、複雑、精緻の粋を極めています。

積み木の影

「ねえ、ママ。おうちってすぐに大きくなっちゃうね」―――四角が2つと三角1つ、3つの積み木でおうちを作った坊や。ママとのお出かけから帰ってみたら、朝には「子犬のおうち」ほどだった積み木の影が、「大きなお屋敷」になっていた。―――坊やは、子ども部屋で、太陽の運行を感じ、時間の推移を形でとらえたわけですが、やがて、太陽は動かないという、まったく逆の真理を知ることで、自在にとらえてもよいことの背後には、そう見える原理や法則がしっかりと組まれていることを学びます。

入試問題が問うもの

各高校の入試問題には、毎年、高校の先生方がその作成のために投下された膨大な時間と工夫の量が感じられます。だからこそ、秀作も数多く生まれます。たとえば数年前、筑駒高の理科で名作と言える問題が出されました。刻々と変わる状況をきちんと分けてとらえる頭の中の装置を確認する問題でした。物理学の原理の下で、わずかな条件の違いで起こる多様な組み合わせを自在に考えめぐらせることができるかが試されています。行きつ戻りつしながら、徐々に深まる思考力の深度を問うものです。科学の不思議さの種明かしができるのは、そんな頭の中の装置を回転させられる力であり、どんな光が差し込んでもいつも同じ形、同じウサギのイメージを喚起できる力だと言えそうです。ありふれた現象にも驚くことのできる心があれば、頭の中の映写機は、その精妙な仕組みを明かしてくれます。

打撃コーチは「ボールの芯をねらって打て」とは言いますが、近づいてくる豪球の芯などねらえるはずがありません。しかし、「ボールの芯をバットの芯でねらえ」と教えれば、グリップの上、数十センチのあたりに埋め込まれている好球必打の炎の塊が、長打を打たせてくれそうな気がしてきます。ヒットは芯が芯に命中して生まれるわけで、入試問題も、出題のねらいの本質が、受験生の頭の中の最も膨らんだ発芽部分に命中していなければ、名作、秀作とは呼べないようです。名作は香気を放ちます。行きつ戻りつしながら考えている受験生に「おもしろい!」と思わせるような香り高い出題のセンスを必ず含んでいます。

仕組みを学ぶ

やがて「雪ウサギ」が消える頃、ふもとの野には、一斉に菜の花が咲き広がります。近づけば、ただの黒ずんだ残雪なのでしょうが、新幹線の窓から見れば、確かに両耳を立てながら草をはむウサギです。目に見える現象のとらえ方は積み木遊びのように自由です。その奥の原理原則のなせる仕組みを学ぶことさえ忘れなければ。

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