[受験歳時記] 第1回 「ふたつの手のひら」~祈りを包む手・願いを放つ手~

祈りの手、願いの手

開門と同時に、舞浜の空高く湧き上がる歓声は、魔法の始まりを知らせるファンファーレのようです。

ここは、東京ディズニーランド(TDL)。その全体マップを広げてみると、水をすくい上げるときの両手形のようで、過去を旅する左手から未来をのぞく右手へと、時間旅行も楽しめるのです。

さて、ここで、水をすくい上げた形のまま、左右の親指の付け根をくっつけると「祈りの手」ができあがります。そして、親指を人差し指から離していくにつれて、手のひら同士は近づき合い、やがてピッタリ合わさると、すっかり「願いの手」の形になっています。祈りと願いには、それぞれかなえたい物事と心の持ちようが映し出されますが、手のひら同士が作る形、その間隔で、その違いが決まってくるような気がしませんか。

そして、さすがに計算し尽くされた設計思想が、すみずみまで行き届いているTDLです。シンボルであるシンデレラ城の入口の横には、抜かりなく「祈りの泉」と「願いの井戸」とがしつらえてあります。冒険とファンタジーを行き来する間も、祈りと願いの敬けんな心さえ失わなければ、思う存分子どもに戻れたこの一日を、夜空を焦がす花火で忘れがたく締めくくることができるでしょう。

半熟卵

娘を自分の手もとに留めおくか、それとも外の世界に飛び出させるか、親としてのそんな迷いからでしょう、成長期のわが子を「半熟卵」にたとえたある母親の詩がありました。「半熟卵」を包む手は、「祈りの手」のようにふっくらと膨らんで中身を守り育てていたはずです。しかし、やがて、小さい命が飛び立ち、空になった後の両手のひらは、静かに閉じられ、旅立ちの無事を思う「願いの手」の形になっていることでしょう。

SAPIX中学部がイベントでよく使用する代々木ゼミナール本部校 代ゼミタワー16階には「日日是決戦神社」があり、毎年多くの受験生が合格祈願に訪れます。高層階にある空中庭園からの見晴らしのよさは、新年の真新しい空気を胸いっぱい吸い込みたくなるほどの眺望です。神社に向かったら、まず「祈りの手」で合掌して一礼し、社殿正面で二度柏手を打ち、最後に鳥居前に下がって今度は「願いの手」で合掌して一礼します。この一連の動きは、まず祈ることで神に呼びかけ、二度の柏手で神を招き、最後に真摯に願うことで自分の中に神を呼び込むものです。ここでの神とは「福の神」。晴れがましい入学式の朝、最も着てみたかった制服に袖を通すとき、あなたとあなたのご家族を、丸ごとくるみ込んでしまうような大きな福の到来です。半熟卵のまだ固いはずの殻が、外と内からそろって破れる、啐啄(そったく)同時の得難い瞬間です。

なお、「日日是決戦」とは、来る日も来る日も断崖を登るような決死の戦いのことではなく、むしろ、野原を断崖のように歩いてみるような、そんな心がけを意味します。のんきに過ごそうと思えばいくらでも安穏で平坦な毎日です。が、あえて、加えなくてもよい条件をつけ、余分な負荷を背負いながら過ごしてみる日々の鍛錬を意味します。殻を破ったひな鳥が、翼を分厚くするために、日々自分に課している羽ばたき練習のようなものでしょう。

心強い味方

熱狂空間から日常へ戻る道はさみしいはずですが、TDLのゲストたちの誰もが笑顔で駅に向かうのは、受けたもてなしが最上だったからでしょう。それは、心憎いまでのこまやかさであり、忙しくてそれどころではないはずの人が、私一人のために、なんでそこまで、と驚かせるほどの対応ぶりのことです。広い園内で、小さな結婚指輪一つなくしても、パーク中のゴミ箱を逆さにして見つけ出してくれるキャストがそろっているのがTDLです。

そして、そんなキャスト以上に心強い味方が、受験を迎えるあなたの周りには、必ず一人以上はいることを、忘れないでください。おそらくは、あなたの背中に向けて「祈り」を包むように手をかざし、あなたの歩いて行く道の先々に向けて「願い」を放つように手を合わせているはずです。

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