2015年度 神奈川県立高校 特色検査 出題分析と対策

2013年から神奈川県立高校入試で実施されている「特色検査」は、教科横断的な課題に取り組む、受験生に高度な対応を要求する試験です。この「特色検査」では、ひと言でいえば、「教科横断的な問題を、知識のみに頼らず、論理的に表現し解答する」ことが求められます。

今後、受験においてこのような出題は増えていくと予想されますし、すでに難関高校の入試問題では同様の趣旨に基づく作題は多数見られますので、2015年の特色検査の入試問題とあわせて分析します。

特色検査では様々なタイプの問題が出題されますが、「与えられた資料や課題文をもとに、論理的な解答を組み立てる」問題が毎年のように見られます。特に社会科入試の頻出テーマである世界や日本の課題(環境問題、食糧問題、少子高齢化、日本の財政など)が扱われている場合には、そのテーマに関する一定の知識を備えていることが不可欠となります。しかし、以下に示す記述問題のように、そうした知識にとらわれない思考力が要求される場合もあります。

湘南高[問3(エ)]

文章【B】と【C】(※文章は省略)の内容をふまえて考えると、食料や飼料の輸送に伴う二酸化炭素排出量を減らすためには、消費者は、国産牛肉とアメリカ産牛肉のどちらを選んだ方がよいことになるか、その理由を含めて100字以内で答えなさい。ただし、フードマイレージと地産地消という言葉を必ず用いること。また、理由を示す「から」を文中に使用し、最後は「を選んだ方がよい。」につながるようにすること。

テーマ自体は地球温暖化と食料問題を組み合わせた社会科入試問題の定番で、指定のキーワード二つについても文章【B】において“二酸化炭素排出の抑制に役立つ考え方”という文脈で一から説明されているため、解答作成は容易な問題に見えます。しかし、ここで注意すべき点は、文章【C】が文章【B】の考え方の問題点を暗に示している内容であるため、問題の指示通り【B】と【C】両方の内容をふまえて解答を作成する場合、(2通りの解答が可能な問題に見えても)正解は1通りに絞られるという点です。多くの中学生が学んできたこのテーマに関する理解は、基本的に文章【B】の観点に立つ場合が多いので、この観点のみを軸に解答を作成した場合、文章【C】を無視した、つまり、作題意図を読み誤った解答になってしまいます。

この例のように、資料を伴う記述問題は、「自分の知識や意見を解答に十分反映してよいか、それとも資料が示す情報を優先させるべきか」を見きわめること、すなわち与えられた課題文・資料・問題文が示す作題意図を的確に把握することが重要です。

作題意図にのっとった論理的な解答を作成するためには、資料を客観的に読み解く記述問題の演習を重ね、その都度、解答の添削を受けて自分の解答に足りなかった要素を認識するという、国語の学習にも通じる対策が必要です。

同様の学習法は英語に関する設問についても、応用することができます。

湘南高 問1(オ)では、修辞法について述べた本文を踏まえ、「同語反復」を用いた日本語を英語に直す問題が出題されました。弟にお菓子を食べられた兄が、弟のお菓子を食べることで仕返しをする様子を見て、母が兄をたしなめる場面での母の台詞、「次郎も次郎だけど、あなたもあなたね」を英語に直します。

もちろん、直訳では正解を導くことができません。ここでのポイントは2つあります。

①母の言いたい内容を日本語で整理する。
②整理した内容を自分が使える表現で英語にする。

まず、「次郎もあなたも悪い」という母の伝えたい内容を掴みます(①)。
「次郎もあなたも悪い」ということは「次郎もあなたも同じである」と考え、「as ~ as・・・」 の構文や「both A and B」の表現を想起できるとよいでしょう(②)。

①はいわば「和文和訳」ともいえる思考で、口語調にくだけた文の主語述語を明確にし、シンプルに捉え直す行為です。このように、2段階の思考を経て解答を導くタイプの英作文は、国立大附高の入試問題でも見られます。

2013年筑波大附高大問4(2)の問題は、2015年の湘南高の特色検査と同じく、対話文中の日本語を英語に直す問題です。

2013年 筑波大附高 大問4(2)

まず、主語が「私」であることを把握し、さらにSo early?「そんなに早く?」や文末の「~なあ」から、「残念ながら私は間に合わないと思います」という心理面まで把握することが大切です。

横浜翠嵐高 課題1(設問4)問Bは、課題1の本文(日本文)で登場した英国の宣教師によって書かれた、登山に関する英文を読み、指示された内容の英語を書く条件英作文です。設問を含む段落は、スイスの山々の危険性と日本の山々の危険性が対比されており、設問部分は以下のようになっています。

横浜翠嵐高 課題1(設問4)問B

ポイントとなるのは、結果を導く接続詞soに着目することです。解答形式として示された部分を設問部分にあてはめて考えると、以下のようになります。

解説図

soは、原因・理由を受けて、それに伴う結果を導く接続詞です。直前にある、理由を導く接続詞becauseとは逆の文構造です。今回、「だから(so)、○○をするべきだ」という文意を作成するにあたり、soの直前、つまり○○をするべき理由にあたる部分にすばやく注目することができた受験生は、天候の急激な変化に対応できるような準備が必要であるという内容を書けたと思います。文章の内容を明確に理解し、求められていることにすばやく対応するために、日頃から接続詞に注目して文章の論理構造を的確に把握する練習を積むことが大切です。

ここで取り上げた湘南高、横浜翠嵐高、筑波大附高に共通することは、「解答する内容を考え出したうえで、持っている知識につなげる」という行為です。知識を持っているだけでは不十分で、その知識を使うまでのプロセスを訓練する必要があります。対話は必ず「相手の台詞を受けての自分の台詞」ですので、すべての文(台詞)には関連性があります。論理的にインプットし、それをシンプルにアウトプットする力が試されているといえますので、先に述べた「作題意図にのっとった論理的な解答」をできるように、5科目どの科目を学習するにあたっても常に意識して学習する必要があります。

次に、数学の要素を含む問題を見てみましょう。

湘南高問4(イ)

理解のポイントとなるのは「文字で置くことによる一般化」です。

図2

この問題は、○に入る数字を図2のようにa、b、c、d、eとおいてみることが重要です。すると、その間の□に入る数字は、aから時計回りに、a+b、b+c、c+d、d+e、e+a となります。

会話文では1から10の和が55であることが議論されているので、右図の10個の数字の和を考えると、3(a+b+c+d+e)となるため、和が必ず3の倍数の形で表されることを示していることが分かります。

すなわち、55という数は3で割り切れない数の為、条件にあった図を作ることはできないことが、一般的に説明されました。

このように数学において、「文字で置いて一般化」することが有効である問題は数多くありますので、類題の演習をつみかさねておきましょう。

横浜翠嵐高 課題1 設問1

~前略~

いま、ある大地に引かれた平行線に、円を描き加えることで新たな地上絵を作成するものとする。平行線は10m間隔で無数に引かれているものとし、描き加える円の半径を3mとする。円を無作為に100個描いたとき、円の一部が平行線上に乗らないのは、およそ何個と推測できるか。

~以下略~

図3

円の中心が動ける範囲に注目することで、円と直線が重なる領域(右図の灰色部分)と円と直線が重ならない領域(図3の斜線部分)の割合を読み取ることができます。その情報から、直線と重なる円の個数を推測することが可能です。

一見すると見慣れない出題ですが、これは数学における「資料の整理」に分類できる問題です。

「資料の整理」は、近年出題が多くなってきている注目の単元の一つです。実際、今年度の入試問題を見渡しても、以下のような難関校において、出題がなされています。

2015年 学芸大附高 大問1[4]

赤い球だけがたくさん入った袋の中に白い球を100個入れてよく混ぜ、この袋の中から50個の球を無作為に抽出した。抽出した球のうち、白い球は4個であった。はじめにこの袋の中に入っていたと考えられる赤い球の個数を答えなさい。

2015 筑波大附高 問題5

池に住む魚の総数を推測するために、次のような調査計画を考えた。

池から魚を無作為に20匹捕獲し、そのすべてに印をつけて池に戻す。

数日後、同じ池から魚を無作為に20匹捕獲し、その中に印のついた魚が何匹いるのかを調べる。

~以下略~

普段からこういった難関校の入試対策に取り組んでいた生徒にとっては、本問が同分野の出題であることに気がつき、冷静に対処することができたでしょう。

科目横断的といわれる特色検査の出題ですが、上記のように、難関校に向けた各科目の勉強をしっかりと行うことで、自然と対応力が身についていく問題も多くあります

見たことがない問題や経験したことがない問題に対しても、日々の各科目の勉強を丁寧に進め、その知識・経験を組み合わせて問題に取り組むことができれば、十分に対応することが可能です。

難関高校入試の出題との類似点は他の問題にも見られました。

横浜翠嵐高 課題1の設問3

横浜翠嵐高 課題1の設問3 図

氷河に関する問題ですが、図を見ると川の侵食と似ていることが分かります。どのような時に地面がより侵食されるのか、侵食された土砂はどこに堆積するのかということを考えることができれば解答にたどりつけます。この場合、侵食・堆積の本質を理解していることが重要です。

湘南高の問2は光の屈折の内容に関する問題でした。光の屈折をただ覚えているだけだと戸惑いがちですが、落ち着いて小問を読み取ると、問題の中に解くためのヒントが書かれています。与えられた図形と問題の中に書かれているヒントをすり合わせてどう対応するかが、鍵になります。

一例ですが、2015年開成高の大問1が湿度の内容からの出題でした。中学生が見たことのない昔の湿度計の図があり、この図の説明文を呼んで、問1ではその図と説明文からこの器具が何をはかるものなのか理解しなければなりません。そして、問2は図の器具がどのようにして湿度をはかるのかを説明する問題です。この問題を解くには、湿度の本質がどのような内容だったかを理解してることが前提で、湿度の性質と問題文の内容をすり合わせて解いていかなければなりません。このような解答にいたるまでの思考の道筋は特色検査と共通しています。

このような問題が難関校の出題に目立つのは、「答えを知っているかどうかではなく、与えられた内容を理解しそこから考える力があるか、考える経験をしてきたかどうかを問う」ためだと考えられます。

このような力を付けていくには、一見難しく見える問題を積極的に考え、簡潔に理解する経験が必要です。

2013年の特色検査実施以降、湘南高の特色検査の問1は論理に関する出題がなされています。2013年の問1は「矛盾」について、2014年の問1は「ある言葉の持つ意味の範囲」について出題されました。今年の問1は「レトリック(修辞法)」に関する出題でした。レトリックを用いたある表現が、どのような内容を意味するのか、あるいは、その内容をレトリックを用いずに表現するとどうなるのか、といったところが問われていました。

2015年 湘南高 問1 (ウ)

下線部(A)について、「鍋が煮えたわよ。」と同じような表現に「お風呂が沸いたわよ。」がある。 これを「鍋の中の具材が煮えたから、食べなさい。」にならって、相手に伝えたい内容を、「お風呂」に続けて、20字以内で書きなさい。なお、理由を示す「から」を文中に使うこと。

日頃から言語や論理に対してそれほど意識した経験のない受験生には難しい出題だったと思われます。逆に、日頃から言語や論理に対して意識を持ちながら生活していれば、それほど難しい問題ではありません。例えば、「こういう表現はおかしいのではないか」「正しくはこう言うべきではないのか」というようなことを考えてきたかどうかが、今年の湘南高の問1をスムーズに解くためのポイントになっています。

また、2013年、2014年の問1も含めていえば、言語や論理、意味といったものに関する興味や関心を持って生活することが重要だったと言えるでしょう。人間は、意味のある言語を論理的に組み立てて思考する生きものです。言語、論理、意味といったものは、思考の根幹をなすもので、いかに思考しながら生きてきたかということが問われるのが湘南高の特色検査であるといえます。

なお、論理に関する出題では、2014年の慶應義塾高 大問1 問5で「文章Aの内容と矛盾しないものを次の中から一つ選び、記号で答えなさい」という出題がありました。文章の内容を正確に読み取り、それと論理的に食い違わない内容の選択肢を選ぶ問題でした。

横浜翠嵐高では2014年に続き、2015年も少ない字数でまとめる記述問題が出題されました。

2015年 横浜翠嵐高【課題1】 (設問2)

下線部2「峠のほかに、畑、辻なども国字です」について、日本では、「畑」という文字が作られ、「田」と区別がなされているが、中国では、「田」も「畑」も、どちらも「田」の文字で表されている。国字の「畑」は、「火」+「田」から成り立つ文字で、森林を焼いて土地を切り開き、そのあとに耕作したり、雑草やワラなどを火で焼いて肥料としたことに由来するとされている。中国においても、同じような方法で土地を切り開いたり、耕作を行っているにもかかわらず、「畑」の文字は作られなかった。課題文を参考に、日本で「畑」という文字が作られ、「田」と明確な区別がなされるようになった理由を、句読点を含めて20字以上40字以内で書きなさい。

この問題では課題文を読み取ることはもちろんのこと、少ない字数で解答をまとめることが要求されています。もちろん、指定された字数の範囲で書けばそれだけでよいというわけではなく、制限字数内で、なおかつ論理的に矛盾のない正しい解答でなければ得点にはなりません。つまり、ここでも求められているのは論理性です。論理が強引であったり、破綻したりしていれば、説得力はなくなり、減点の対象となるでしょう。なお、このように短い字数で解答をまとめる力が要求されるのは、開成高や筑駒高の入試問題です。短い字数でまとめるには、文章からのコピー&ペーストだけでは不十分で、自分なりに抽象化することが必要で、抽象化にはその内容を簡潔にまとめる語彙も必要です。

語彙を増やす勉強を積み重ねるのは、単に知識を増やすためではなく、文を簡潔にまとめるためであると考えるべきです。

ここまで見てきたように特色検査にはいくつかの特徴があります。

①与えられた資料や課題文をもとに、客観的に解答を組み立て、論理的に記述する
②作題意図にそった解答をどの科目を学習するにあたっても常に意識する
③一般化や抽象化といった思考が必要で、記述問題においては語彙力だけでなく数学的な論理も必要である。
④一見難しく見える問題をその場で読み解き、簡潔に表現する。
⑤見たことのないような「初見」の問題が出題されるが、その背景には難関高校の入試問題との共通性が多数ある

これらの特徴を有する湘南高、横浜翠嵐高などの特色検査に対応するためには、日常生活の中で、疑問に思うことや不思議に思うことに対して、「なぜそうなるのだろうか」「こういう理由ではないだろうか」と考える経験が必要です。このような考える経験は、批判的精神がなくては生まれません。納得がいかない物事に対して「なんとなくそうかもしれない」「誰かがそう言ったからそうなのだろう」と安易に妥協してしまっては考える経験から遠ざかってしまいます。ぜひ、日頃から、何事に対しても、「納得する」ということを一つの目安にしてみてください。日々少しずつ、特色検査入試への対応力が身に付いていきます。

「SAPIX高校受験情報室」― 神奈川県立高校 関連コンテンツ

ページトップへ